奇女子 

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1972年に邵氏は李翰祥監督、許冠文主演の大軍閥を発表した。戦前の軍閥の愚行悪業を描いた喜劇だった。そこに二人の奇女子が登場している。

 

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狄娜

 

狄娜はティッナーと読む。蕭芳芳と同じく、書世香家(知識人階級)の家庭に生まれ映画界入りした。当時の風月片、つまり後の三級片ソフトポルノの女優となった。
軍閥では許冠文の愛人として大胆な裸身を披露し、反響を呼び起こした。本人は「泰西名画のような画を撮りたい」とだまされ、ロングショットで撮影される約束だったと後悔の念を述べた。実際は肉弾接近戦が評判をとった。映像は女優の造化の妙を感じさせる美しいものとなっている。

 

人気急上昇にもかかわらず失意の狄娜は映画界を去り、香港の硬派報道番組で司会をつとめるようになった。それだけでなく、70年代に航空誘導管制の事業を開始して成功をおさめた。90年代には中国の人工衛星開発にたずさわり、そこでも先導者として成果をあげた。

 

これだけでも奇とするに足るが、さらに数多くの伝説を生みだしている。本人によれば文化革命に触発されて共産主義者愛国者となり、女優業のかたわら中国のために間諜として活動した。また米中国交回復にも尽力したという。
数多くの浮名を流したといわれ、芸能界以外にタイ首相の兄弟、グッチ家の一族、米国旅客機の機長などの名があがっている。

 

本人は、自分が何を成し遂げても裸でしか記憶されないと嘆いた。こちらも裸は素敵だったという以外どう判断していいかわからないが、死去のさいは新華社で記事が掲載されたので功績は認められているのだろう。下司な香港媒体も奇女子として好意的だ。奇は奇妙であり奇抜であり数奇だ。名不虚伝、奇女子の名にふさわしい。

 

 

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施剣翹

軍閥にはもうひとり元祖奇女子が登場する。映画は複数の軍閥の実話を下敷きにしているが、父の仇を射殺した施剑翘維基施劍翹)にもとづいた刺客を何莉莉が演じている。

 

施剣翹の父は北洋軍閥奉天系に属する軍人だったが、1925年直隷軍閥の孫傳芳との戦闘で捕虜になり、駅頭で斬首され屍体をさらされた。
施剣翹はその年20才で天津師範学校を卒業していたが報復の念やまず、「被俘犠牲無公理,暴屍懸首滅人情。痛親誰識児心苦,誓報父仇不顧身」の詩を作った。
復讐に協力するとの条件で兄の知人と結婚したが、夫が消極的な態度をとりだしたので二児を連れて離婚した。その後、百度に「手术放开了裹着的双足」とあるが、おそらく纏足の矯正をしたのだろう。

 

10年後に隠退していた孫傳芳の居所をさぐりだし、拳銃で射殺した。ただちに自首したが擁護する声高く、親孝行と日本の侵略への抵抗の象徴として特赦された。施剣翹は奇女子と呼ばれたが、これには奇特の意味もあるだろう。

 

施剣翹を祖型とした電影はいくつかある。
女刺客 1988 岳红が演じた
一代宗師 2013 章子怡ー宮若梅
邪不压正 2018 周韵ー関巧紅