ラーニー

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6-80年代のパーキスターン女優ラーニーについては、カッワーリー、ウムラーオ・ジャーン・アダー、蛇女の項目ですでに紹介している。伝記はwiki(Rani actress)にあり、作品歴は Pakistan film magazine(復活した)に詳しいが、同国映画の問題として内容データは非常にとぼしいしimdbも役に立たない。ラーホール生まれのパンジャービーで、見た目ちょっとローラも入っている。PFMに記録された178本のうちウルドゥー映画が出演の6割を占める。まちがいなくマードゥリーやパドミニに相当するパーキスターンでもっとも成功したダンサー、役者とはいえ、名手なのにきちんと踊っているクリップはあまりないし、あっても画質が非常に悪い。

それでも作品数に応じて同国映画のトピックスの中にかならず登場してくるので、これまでとぎれとぎれに参照してきた。近年、やっとtubeの品揃えも増え映像も(それなりに)よくなってきたので、あらためてふれ直したい。

 

ウムラーオ・ジャーン・アダー(1972)はレーカーのUmrao Jaanのようなアート映画ではないが、娯楽作品として大ヒットした。レーカーの「踊り子」(邦題)は原作小説の筋書きに忠実で、ラーニーのものはかなり改変されている。ラーニー版ではダコイトの恋人もインド独立戦争も出てこないし、後半は子供の親権争いが話の中心になってしまう。wikiのUmrao Jan Ada(film)のストーリーは小説の項をコピーしたもので、映画の実際とは異なっている。このころのラーニーは月一本作品が公開されているので、プログラム・ピクチャーのひとつといえるだろう。

ナワーブの息子との出会いはムシャーイラー(詩朗誦会)で、ガザルをそれぞれ披露することから始まる。えらく映画的に下世話なポエトリー・レシテイションだが、ムガル宮廷での格式高いもの や現代の大衆的ムシャーイラーと比べるとおもしろい。詩はこういうものでもありうる実例だ。

さらにムジュラーでの manne na barri balma の踊りで、Shahid演じる道楽息子はすっかり心を奪われてしまう。ただし跡取りのいない妻帯者なので、それがドラマの軸となるあたりから原作を逸脱していくことになる。
いろいろすったもんだして katte na katte re(歌唱はRuna Laila)では相愛となる。

初のウルドゥ語小説といわれるウムラーオ・ジャーン・アダーについては、原語画像版とガザルの英訳のサイトがあるが、いつかオリジナルを読みたいものだ。このコロンビア大のサイトには西洋人による18-19世紀の踊り子の貴重な石版画も多数ある。

 

aa dekh Mohenjo Daro mein (Ik Gunah Aur Sai 1975 ウルドゥ)
おなじみの「インダスの踊り子」の像と廃墟。ムホンジョー・ダローでムハマド・アリーMohammad Aliを追い込むラーニー。コメント欄に「子供のころ、この歌を聞いてこわかった」とあったが、「死者の丘で会いましょう」と迫られたらだれでもおじけづくだろう。踊りの背後に見えるのはシヴァの原型といわれる獣主Pashupatiではなかろうか。

 

ヒンディー映画Mohenjo Daro が今夏公開されるらしい。リティク・ローシャン主演のインダス文明ラヴストーリーだという。

 

jind akhan ke jaan (Jind Jan 1969 パンジャービー)
ラーニーが手にしているのは、トゥンビーTumbiというパンジャーブ地方の一弦琴。きれいなイラスト入りの私家版楽器事典が重宝だ。

 

アミターブ主演の「アマル・アクバル・アントニー」(1977)の翌年に、パーキスターンでは「アクバル・アマル・アントニー」と「スィーター・マリヤム・マーガレット」が製作されている。パクリっこは印パおたがいさまというしかないが、後者ではラーニーが一人二役に挑んでいる。
kar chukey hum be-naqaab (Seeta Maryam Margaret 1978 ウルドゥ)
いろいろ突っこめる不思議な場面。娘が誕生祝いに不適切なキャバレーソングを歌いだしたので客は憤然と席を立ち、親はオロオロしている。マーガレットは実は双子のコールガールで、後半登場したムサルマーンの本物の娘マリヤムが歌で非難した。クリケット男はバカ息子のシャーヒド。作品は当時物議をかもしたらしい。
hey bhai, hey mister!
インドっぽい踊りを踊るのは、マーガレットと身柄を交換したマリヤム。元はヒンドゥーのスィーターだった。でもパーキスターンだから回る回るよく回る。

 

ラーニーには前に紹介したNaag Maniと Naaga Aur Nagin 以外に、Nachay Nagin Bajay Been (1965 ウルドゥ)とSheesh Naag (1985パンジャービー)という蛇映画がある。Naag Aur Naginの映像を追加する。ヘビ男はワヒード・ムラードWaheed Murad。

Naag Aur NaginはニーローNeelo主演の Nagin (1959) のリメイクだが、カラー化以外は作品として劣る。59年版ではヌードで泳ぐ場面があるのに、72年版では下着を着ている。ニーローはナルギースで紹介したシャーンShaanの母だ。

ヒンディー映画にも、Nachay Nagin Bajay Beenの同タイトルでヘレンとクムクム出演の60年製作蛇映画がある。

 

kara seyah kara (Babar Khan 1985 パンジャービー)
突然はさまるモハメド・アリの顔とか、雑な世界地図とか見所はいろいろあるが、これはナルギースで紹介したmein nai boldi mera wich同様、パンジャーブ地方の結婚式でかならず歌われるものだそうだ。「黒い人が好き、白いのはあっち行って」という歌詞なので黒白合戦になる。働き者の農民をたたえているのだろう。
これはヌール・ジャハーンの歌唱で、分離以前からある民謡だからインドでもさまざまな歌手によって歌われている。
Jasbir Kaur
Kaurはスィク教徒名で、黒いサルダールが好きと歌う。素朴ですてきだ。
Annamika
コンサートで景気よく。MVもあってアーローク・ナートとリーマー・ラーグーが共演しているのでHum Aapke Hain Koun!みたいだ。ふたりは親の代名格で、チャック・ノリス・ジョークやラジニ・ジョーク(「コブラがラジニを噛んだ。コブラは死んだ」)のようなアーローク・ジョークやリーマー・ジョークが最近はやっているらしい。
Anuradha Paudwal
Aayee Milan Ki Raat (1991 ヒンディー)の中で。この歌詞では黒い人はやさしいdilwaaleと歌う。
恋人dildaarとするものもあって、結局、土地土地でさまざまな歌いかたをされているようだ。
あれこれ書いたのはこれらの映像のコメント欄が歌の帰属権をめぐる印パの戦場になっているからだが、煽っているのはニセ南アジア人のような気もする。