もう一人のパドミニ(再編集)

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まず、パドミニは16年1月に死去していた。生年は1944年で、亡くなるまでカルナータカ州のベンガルール(バンガロール)で著名なバラタナーティヤムのグルとして活動を続け、たくさんの弟子たちを育てた。映画界に足を向けたなかにLakshmi Gopalaswamiがいる。
ただ、結婚してパドミニ・ラーマチャンドランPadmini Ramachandranとなっていたので、検索にかからなかった。トラヴァンコール姉妹のパドミニもたまたま同姓で、これでは見分けがつかない。しかし弟子たちによる追悼文や死亡記事で多くのことがわかってきた。
昨年、Wikiにも初めて登場したのだが、歿したことについては反映されていない。いっぽう最近tube映像が増え、時をさかのぼって若きパドミニに会えるようになってきた。

 

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新情報としては、パドミニが李安の「ライフ・オブ・パイ」(2012)に出演していたという驚きのニュース がある。パイの想い人が学ぶダンス学校の先生としてだ。ムリダンガムをたたく主人公の隣にいるのがパドミニに他ならない。不可能を可能にする李安監督ならではの魔術と思いたくなる。実際は、パドミニの息子が映画製作会社で働いていて、その勧めでオーディションを経て半世紀ぶりの銀幕登場となった。マドンナ役の女優も弟子とのことだ。また本人談では李安はバラタに精通していたという。

 

記事から伝記的事実をまとめると、パドミニはケーララ州生まれでマドラス(チェンナイ)で育った。4才でダンスを始め、グルの一人にはVazhvoor Ramaiah Pillai(Wiki)がいる。カマラー、ヴァイジャンティマーラー、パドミニ、L.ヴィジャヤラクシュミも同門をくぐっている。Vazhvoor流は映画との親和力が高い。シュリンガーラのラサを重視するスタイルというのだが、この件はいつか記事にしたい。

以前書いたように、1956年にマラヤーラム、カンナダ、テルグ映画で初登場している。また最後の作品公開は63年だ。英Wikiではヒンディー、カンナダ、タミルの18本がリストされているが、マラヤーラム6本、テルグ2本が抜けている。整理して再リスト化すると

マラヤーラム Avarunarunnu(1956)、Manthravadi(56)、Thaskaraveeran (57)、Chathurangam(59)、Minnal Padayali(59)、Sreerama Pattabhishekam(60)

カンナダ Bettada Kalla(57)、Rayara Sose(57)、Jagajyothi Basveshwara (59)

タミル Iru Sagodharigal(1957)、Deiva Balam(59)、Annaiyin Anaai(58)、Sahodhari(59)、Thamarai Kulam(59)、Kuravanji(60)、*Baghdad Thirudan(60)、Petra Manam(60)、*Rathinapuri Ilavarasi(60)、*Then Nilavu(61)、Vidiveli(61)、Paadha Kaanikkai (62)、Iruvar Ullam(63)、Nenjam Marappathillai(63) *印は出演が疑わしいもの

テルグ Bhakta Markandeya(1956)、Narthanasala(63)

ヒンディー Maya Machindra(1957)、Lajwanti(58)、Do Behnen (59)、Sampoorna Ramayana(61)、Dil Hi To Hai(63)

(インド映画の記録は不備が多いのと、以前ふれたPadminiとPriyadarshiniの混同の問題から、Wikiのタミル映画出演リストのうち疑わしいものに*マークをつけておいた)

(Bhakta Markandeya はテルグ、カンナダ、タミル版がある。テルグがオリジナルだと思われるが、他の二つが単なる吹替なのか役者や歌が違う別版なのか判断できないのでテルグ版だけを採る。)

 

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不明のものとして娘が挙げているBhaghaperavne ( भाग्य प्रभु か?)があり、計31本(*印をのぞくと28本)となる。またテルグ映画が少ないのでまだ出てくるかもしれない。往時の記録で1961年5月時点の新聞記事に22本出演とあったが、実情に近い数字だろう。主演も増え順調な活動だったようだが、毎年判で押したように4作くらいの出演で、人気の出てきた女優としては物足りない。

これには手がかりがあって、ダンスへの情熱が 第一だったこと、またごく若いうちに結婚し出産もしていることがあげられる。早々とした引退の理由はこれだった。さらには俳優業のかたわら学業も続けていて、リタイア後に子育てをしながらマドラスのEthiraj Collegeで科学を専攻し動物学で学位を取っている。金メダル組だというので、芦田氏とか山尾氏タイプの人だったようだ。

1974年にバンガロールに居を移し、バラタの学校を始めた。以後、カンナダのドゥールダルシャンでTVダンスドラマを数多く制作し、それらの活動もあわせ何度も受賞している。Guru Padmini Ramachandranでtubeサーチすれば生前のコンサート映像にふれることもできる。そして掉尾を飾ったのは李安映画への出演だった。

 


 

「猛烈パドミニ・プリヤダルシニ」(2015.11投稿)

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まずSampoorna Ramayan(1961 ヒンディー)のダンスシーンを見てもらえばわかるが、愛神カーマを演じるゴーピー・クリシュナ Gopi Krishna(シヴァと二役)と対等以上にわたりあっているのがPadmini Priyadarshiniだ。ダンス能力の高さだけでなく「おまえには負けない」との気迫すら感じる。
ゴーピーといえばインド映画界最年少の振付師となり、17才でJhanak Jhanak Payal Baajeに主演し、「偉大なムガル」で謎のダンサーを演じている。映画界で踊りを教えた俳優は数多く、レーカーの「ウムラーオ・ジャーン」などあまたの振付を担っている(Wiki)。だからこのコンペのレヴェルはすごいものだ。カマラー(クマーリ・カマラー Kumari Kamala)を思わせるところがある。

 

このほかtubeにある映像ではN.T.ラーマー・ラーウのNarthanasala(1963 テルグ)で踊った naravara o kuravara
ラージ・カプールのDil hi to hai(1963 ヒンディー)で laaga chunri me daag と parda uthe salam ho jaye
Bhakta Markandeya(1956 テルグ)の tirugonda mallaiah  などがある。

ところが60年前後に多くの作品に出演を果たしたものの、63年以降のこの人の足跡がまったくわからない。これだけのダンサーなのに映像も少ないし、おそらくタミル映画界出身で1943年あたりの生まれという以外のプロフィールもまったく不明だ。

 


 

「もう一人のパドミニ」(2015.11投稿)

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Minnal Padayaliのポスター

 

パドミニ・プリヤダルシニのことだが、もう一人というのはパドミニ本人と間違われることがあってフィルモグラフィーに混乱をきたしているからだ。プリヤダルシニという別人とも重なったりする。

IMDbにはJagajyothi Basaveshwara(1959 カンナダ)、Do Behnen(59 ヒンディー)、Vidiveli(60 タミル)、Iruvar Ullam(63 タミル)、Dil Hi To Hai(63 ヒンディー)の6本があがっている。ダンスだけのアイテム出演のこともあれば、ちゃんとした役をもらっていることもある。

 

タミル映画界出身らしいと前日書いたのは、マラヤーラム映画サイトにそのような記載があったからだ。それでもマラヤーラム映画データベースではAvarunarunnu(1956)ダンサー役、Manthravadi(56)、Thaskaraveeran (57)(wiki)、Chathurangam(59)主演(wiki)、Minnal Padayali(59)主演、Sreerama Pattabhishekam(60)ダンサー役、と6本のマラヤーラム映画出演が記録されている。
このうちChathurangamでは作品、演技が高く評価され、Thaskaraveeranではラーギニと共演している。
タミルwikiによればதெய்வபலம்Teyvapalam(1959)、இரத்தினபுரி இளவரசிRatnapuri Ilavarasi(60)への出演が確認できるが、タミル映画のデータベースには名がない。

 

ここからが困難になるのだが、パドミニ プリヤダルシニと併記されていた場合、それがトラヴァンコールのパドミニとプリヤダルシニという二人か、それともこちらが探す本人かの手がかりが現時点ではない。タミルwikiでもまちがっていたりする。さらには、先に紹介したChathurangamなどは、tubeでパドミニのサムネイルが付けられたりしているありさまだ。

 

これまでのところ16本の作品が確認でき、それも60年前後に集中している。主演もあるのだから着実に成功の道を歩んでいたと思われる。それからどこへ行ったのだろう。
ジャーナリズムのアーカイヴでは、Chronicle of Singapore, 1959-2009という電子書籍で61年5月の記事として「22本以上のタミル、ヒンディー映画に出演した18才のPadmini Priyadarsiniがツアーを率いてシンガポールに到着してファンのためにショーを開く。一行はクアラルンプルに向かう予定」という項が検索にかかるくらいだ。

インド映画史でもトップクラスのエネルギッシュなダンサーでアビナヤにも長けたパドミニ・プリヤダルシニの映像のアップを待っている。

検索ワード

padmini priyadarshini  padmini priyadarsini   பத்மினி பிரியதர்சினி(タミル)

పద్మిని ప్రియదర్శిని(テルグ) പത്മിനി പ്രിയദർശിനി(マラヤーラム)

पद्मिनी प्रियदर्शिनी(ヒンディー) (ウルドゥ) پدمنی درشنی

ಪದ್ಮಿನಿ ಪ್ರಿಯದರ್ಶಿನಿ(カンナダ)

*L.ヴィジャヤラクシュミの記事にもパドミニとの競演映像がある。