ラーヴァニー

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マラーティー映画 Natrang (「旅役者」 2010)は70年代のマハーラーシュトラ農村が舞台で、アトゥル・クルカルニー Atul Kulkarni がレスラーでもある筋骨たくましい農民として登場する。
アトゥルの主人公は失業の憂き目にあい、芝居好きだったので仲間と一座を組んで食おうと「フル・モンティー」みたいな展開になる。ところが踊り子なしには成り立たないと指摘され、ソーナーリー・クルカルニーSonalee Kulkarni を見つけだす。ソーナーリーには「natchya (女形)がいなければ芝居にならない。」とさらにダメを出され、誰もなりたがらないので主人公が減量して逆ダンガル状態で引き受けることになる。

 

その後も苦難の連続なのだが、劇中のナンバルである apsara aali (天女来たる)に麻薬のような魅力があって、がぜんマラーティー映画音楽への興味が高まった。ソーナーリー・クルカルニーはカッタクの使い手で、修行を積んだ人が下衆に崩して踊るさまが好ましい。


曲調はアラビアンでないかと思ったのだが、微小音程だのマカームだのは天竺の果ての話で、ラーガ、ターラ以上にあまりよくわからない。ただマラーティーはペルシア、アラビアの影響を濃く受けているらしい。
歌詞もヒンディー話者を含むインド人がみなわからないとコメントしている。(ひとりだけパンジャーブ人が「理解できる」と書いていたが実情は不明)googleでもマラーティーでなら訳せるが、ヒンディーでは意味不明になる。

 

これはマハーラーシュトラの大衆芝居、タマーシャーtamasha で演じられる踊りで、ラーヴァニーlavani (wiki)と名が付いている。
北インドの大衆総芸はナウタンキーnautankiと呼ばれるが、タマーシャーはそのマハーラーシュトラ版にあたるらしい。

そこでラーヴァニーをあれこれ見たが、apsara aali のアラビア調?はまったくの例外だった。Natrang ではこちらのほうが典型に近い。ソーナーリー・クルカルニーは Zapatlela 2 (2013)でもラーヴァニーを踊っている。アップテンポでノリのいいパンジャービーみたいな音楽だ。

ここの定義によれば、ラーヴァニーはマラーティーのムジュラーにあたるとのことだ。同サイトでは最近のシネマ・ラーヴァニーがいろいろ紹介されている。サイト主は Sitara Devi (wiki)の孫弟子にあたる人。 Sitara Deviは「スネークダンスの系譜」記事で紹介しているが、 (ムジュラーを踊るナウチ・ガールとは区別された) 女性カッタク・ダンサーの草分けで、ゴーピー・クリシュナの親戚筋にあたり映画にも多く出演している。

 

 1950年製作の Ram Ram Pahuna の Leela Gandhi(?)のダンスがtubeでたどれる一番古いシネマ・ラーヴァニーのようだ。この記事 によれば、同フィルムはマラーティー初の農村抗争映画だという。

 

5-80年代にかけては Jayshree Gadkar  がラーヴァニーを踊る作品に多数出演している。タマーシャーはマラーティー映画では重要な題材だったとされる。

 

最近の踊り子で上手いのは、Kurukshetra(2013)の Neha Pendse。低予算の「デーヴダース」みたいなダンス・バーでの踊りを見せている。インド系米人で同名のカッタクダンサーがいるのがまぎらわしい。

 

また2017年の Ghuma の Vaishali Jadhav は本職のラーヴァニー・ダンサーで、コンテストの優勝者でもある。 english shikvun soda mala は「英語の勉強、放っといて」 。マラーティー映画は作品、役者ともデータが極端に少ないが、無名でも腕のある踊り手が多そうだ。予算のなさがありありとしているが、編集やカメラに頼らず踊りきっていて、昔のインド映画をしのばせる。
Ghuma はプネー国際映画祭で観客賞をとっている。子供に英語教育を受けさせようと必死になる農民を描いた作品で、舞台は現代だ。

 

灯台下暗しで、マードゥリーの main kolhapur se  を見返すと、あの姿こそラーヴァニーの形式を踏まえたものに他ならない。アップテンポのドールキーに乗り、9ヤードの長いサーリーを股で絞り、半袖ブラウスに後ろ髪を花飾りで団子にして、きびきびと踊っている。

 

main kolhapur se のダンス監督であるサロージ・カーンは、マードゥリー以外にも Yedyanchi Jatraa (2012) でラーヴァニーを振付している。

 

マードゥリーで考えると、Sangeet の main tumhare hoon はスカートを着ているもののタマーシャーの一座なのだろう。ドールキーや舞台の様式に共通性がある。

 

ヒンディー映画ではレーカーが Fatakadi (1980)でショー・アップされたラーヴァニーを演じていた。

 

pinga もラーヴァニーと呼ばれるが、この踊りはペーシュワー時代以前までさかのぼれるので史的にまちがいではない。ただ担い手の多くは現代では指定カーストに相当する下層民なので、王妃は踊らないだろう。