大泉椎名町

男であるとはクズだということで、なんの弁解もない。女も同類であることを願うばかりだ。

 

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萩尾望都竹宮惠子が1970年から2年間共同生活をおくった練馬区のアパートは、富士街道小関バス停を降りて北にちょっと入ったところにあった。

 

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いまは開けていなげやもはま寿司もあるが、1960年代の小関近辺はこんなかんじでもっと田舎びていた。

街道を折れるとすぐ畑で、送電線と鉄塔が目印だったと当時の回想にある。

 

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家並みはすっかり建て替わってしまったようだが、畑と鉄塔は健在だ。大泉の空は広い。

 

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二人の共同生活の破綻については、竹宮が書いた「少年の名はジルベール」しか読んでいない。そこではモーツアルトサリエリのように互いの関係が描かれ、才能の差の自覚に耐えられず同居解消を申し出た話としてまとめられていた。

かたや戦後表現者の極北でありこちらも隆盛をほこる日本BL産業の祖で、ともに位人臣をきわめている。メディアがこの典型的ライヴァル物語に飛びつかないわけもなく、大泉サロンの美名で彩られた往時をドラマ化しないかとかいろいろ企画が立てられたようだ。

 

これに対し萩尾は「一度きりの大泉の話」を書いて、世の風塵から逃れようとした。そんなきれいごとではなかった、ということのようだ。

これで二人の存命中は大泉サロン物語が消費されることはなくなっただろうが、長い目で見れば萩尾も火にあらたな薪を突っこんだと予測できる。

 

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2016年に出た山上たつひこムックに、江口寿史が「ドギワ荘の妄春」というパロディーを寄せている。豊島区椎名町にあったトキワ荘については多くのことが語られているが、この江口のマンガがいちばんひどい。作者は地獄に落とされるんじゃないかと思う。

 

1960年前後のトキワ荘グループの生みの親で人格者であり、兄貴分として尊敬されていた寺田ヒロオがネタにされている。トキワ荘映画では本木雅弘が演じていた。

藤子不二雄らがモデルの後輩に「マンガは妄想だ」と説くテラさんは、年中性欲にかられムラムラムラムラムラムラムラムラしている。

茶屋に入れば看板娘に欲情し、団子を挿入する妄想にとりつかれる。

 

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寺田が存命ならバットで頭を割られているだろう。これはトキワ荘神話だけでなく、50年代の明朗柔道漫画「イガグリくん」を山上がおちょくった、卑劣な主人公「イボグリくん」のさらにパロディーにあたる。山上マンガの精髄を受け継いでいるだけでなく、この何も恐れない妄想力こそマンガの生命だと思わせる。