パンドラの果実第二話もおもしろかったが、もっぱらそれは画面の質のよさにかかっている。新しい機材を使っているのだろう。CGも高速道路沿いに脳神経外科の広告を点在させたり、芸が細かい。
科学を信じたい捜査官、信じない元科学者、科学ッテナニの刑事の組み合わせは、まだうまく機能しているとはいえない。いまのところ物語の傍観者で、個性を立てすぎれば「トリック」になり話は進まない。3人が等分に活躍すれば2時間刑事ドラマになる。いまのところバランスはいいので、進行は停滞していない。
不老不死にテーマがあるようだ。第一話はロボットに精神転送はおこなわれたかが、サスペンスになっていた。第二話はネットに精神転送するため、殺人をおかす脳神経外科医の話だった。くわえてエリート捜査官は、亡くした妻を冷凍保存している。
むだ口をたたくと、冷凍中に霜がついていると鮮度に問題が生じるのではないだろうか。また蘇生可能なまでに科学が発達するのを待つとしても、夫も同時に冷凍睡眠しないと年の差が生じる。冷凍保存は死ぬ者の心の慰めにはなっても、残るほうにとっては新種の葬送儀礼にしかならない。
また脳死すればリセットされるから、生き返ったとしても同一人物にはならない。気の毒だが人生の書は消えてしまう。記憶の保存が必要なら、全身を冷凍しないで脳だけをスリープ状態にして今後に待つほうがよくないだろうか。蘇生させられる時代ならクローン培養など簡単なはずだから、新しく肉体は作れる。
第一話では某博士のロボットへの精神転送が成功したのではないかと、視聴者だけに疑わせる内容になっていた。しかし記憶を保存できるのは、ハードディスクでも10年くらいらしい。誰も事情を知らなければ、某博士の延命は限られたものになる。しかも介護ロボットとして働かなければならないのだから、けっこう過酷な運命に思える。
保存媒体の問題はデジタル映画にもあって、CG加工や編集はたやすいが長持ちする素材がまだないので結局アナログでフィルムに焼き直すようだ。最新機材を使ったこのドラマ自体、フィルム化するとは思えないからいつまでもつのだろう。初期のTV映像などは磁気テープがもったいないというのでどんどん上書きされて、あまり記録に残っていない。デジタル保存しても上記の理由でコピーしつづけなければいけないが、かならずエラーが生じて劣化する。
水と脂肪でできた脳は優秀な記憶媒体だから、映画を無数に保存できる。耐用年数も100年をこえる。1本100GBとして脳の記憶容量は1ペタバイトだそうだから、1万本の映画を収納できる。実際そういう記憶者たちが、手足を動かして街を歩いているかも知れない。
第二話のマッドドクターは、ネットに記憶データを放流して不死になろうとした。しかし記憶が人格として統一されているのは、脳内という局所の系にとどまっているからだ。ネットのどこで記憶のファイルが統合されるのだろう。精神として再生されたとしても、掲示板やコメ欄に滞留したらそれは地獄と呼べるのではないか。
もっと見込みのある方法は、記憶データを指向性電波として宇宙に放射することだ。親切な宇宙人が拾って、完璧な肉体と精神でもって再生してくれるかもしれない。ペットにされる可能性もあるが。
悪女は第四話で中盤の壁に当たったようだ。ドラマはアナクロニズムを採用していて、30年前の原作と現代の間のいつとも知れぬ時代を漂っている。ITの商社なのに紙社会で、今田は書類の山をダッシュでとどけるのが仕事だ。
それはいいが今回は紋切り型の男尊女卑社員との対立で、今田はフェミってなんですか?とブリッコしている。そんな腰の引けた設定では、いまの時代は担えない。