悪女の逆襲

 

社長レースを引っかき回した今田は、懲罰としてまたふりだしの備品管理課にもどされてしまった。しかしそれで出世の道が閉ざされたとめげることなく、管理課の地位を上げればいいと奮闘する。結果として課長代理の地位を得て課長会議に出席するまでになり、半地下ぐらしの課を見晴らしのよい高層階へと移転させることに成功した。

絵にかいたような出世双六だが、今田の卓越したアホの子パワーがおとぎ話に説得力をもたせていた。熱量のある人間は人を引き寄せるし、そこに邪念がないのがわかれば支えようという気にもなる。

今田が武器にしたのが徹底学習した社内規定で、赤と黒のジュリアン・ソレルのようにコードの知識を根拠に障壁をのりこえていった。長ゼリフの活舌のよさも聴きどころだ。

 

その過程で、育児のため閑職の管理課に移動していた企画課社員の、やる気を引き出す副産物もあった。

ここで副筋のJK5と称される女性幹部5割化計画の陰謀が、今田の新たな課題となってくることが予告された。陰謀というのはこの構想がごく一部の幹部社員によってすすめられていて、今田のような意識の低い社員はあずかり知らぬことだったからだ。

前回の新社長選びでは結果的に敗北したが、相討ちで5割化計画をおおやけに承認させることに成功していた。話の終末にむかってこの成否が物語の焦点としてうかんできた。意識の低い今田はこの計画への参加を出世のチャンスとしか考えていないが、男たちの反攻に対処することでまた変化があるだろう。

 

3年以内に幹部社員の5割を女性にするJK5は、かなり困難な目標だ。男性社員の抵抗が予測されるし、何より上からの改革として掲げられ女性社員の組織化や変化はすすんでいない。企業は利益追求集団で、理念や平等のため存在するわけでもない。

しかしこの会社一社の改革が、不可能なわけではない。企業イメージは上昇するだろうし、株価もあがるだろう。人材も集中する。先進資本主義国のなかでは圧倒的に遅れている、日本の企業文化のすき間でひと花咲かせることはありえる。

 

根本的な問題としては、進化の負の側面で出産育児に女性の苦痛負担が多すぎる。頭が巨大化した哺乳類である定めとして、妊娠出産が生物種として理不尽に困難で幼体の成長にも時間がかかる。そのため女性が家事育児を分担し男性が外で働くことが、運命のようになってしまった。

生殖革命をまたずに上からの改革をするとしたら、出産までを女性の役割として家事育児は男性の仕事と法で規定したらいい。

そのかたわらこの法の下では、育児教育は家族でなく社会のつとめとする。それはユートピア社会主義の夢想のひとつだったが、託児所や義務教育として現実の一部ともなっている。子供は社会が育てる理念を推しすすめれば、いまや男性のものとなった家内労働も軽減され男性の社会参加も容易になるだろう。

いくら家庭で手塩にかけて子供を育てても、ネットで韓国の悪口をさがすような人間にしかならない。子供を家族から解放するのが、おたがいのためにもなる。