戈春艶

武林志 (1983)全編

 

戈春艶(春燕)の大刀王五に先立つ初出演作である武林志は、義和団16年後の天津が舞台になっている。1911年の辛亥革命は迷走し、軍閥割拠の時代だ。春艶は闘死した父の弟子だった李俊峰と夫婦になり、家族ともども武芸を披露する旅芸人として世を渡っていた。

 

 

李俊峰は戈春艶の属する北京武術隊隊長で、李連杰の師叔にあたる。地味な中年男だが耐える表情に説得力がある。監督は劉曉慶主演の神秘的大佛 (1980)で、中国初の功夫を導入した作品を手がけた。ここでは辛抱強い職人である夫婦の生活感情を、素人役者からうまく引き出している。

 

天津の路頭で演武していた一家は、当地の武館の館長に武術を売り物にしていると罵られ夫は手合わせを強いられる。わざと勝ちをゆずるが館長は後にそれを悟る。また見物していた薬売りの老人にも腕を見破られ、その家に世話になる。

老人も義和団の残党で八卦掌の達人であり、戈春艶の父とは同門の兄弟だった。夫は演武稼業をやめて煙草売りになり、戈春艶も内職で家計を支える。同時に老人から八卦掌の奥義を学ぶが、訓練は梅花椿の上で行われるので義和団梅花拳の流れを汲んでいるのかもしれない

 

 

ここまでは武侠(捜査官X)のようにしみじみと話は語られるが、後半は洋化のすすんだ天津での外国人ボクサーとの闘いで葉問のような展開になる。反目していた武館館長とは友情を結ぶ。

 

国威宣揚の功夫映画は食傷しているが、チャック・ノリス的な未知の強豪としての外国人敵手の存在はわるくない。この映画では当時の反ソ路線を反映してロシア人と戦う。しかしこの作品の悪は買弁資本家とその用心棒なので、試合は武道精神にのっとって展開される。

ボクサーはもともとフットボールのコーチで、この作品のためにサファーデの訓練をした。李俊峰は円を基本とした八卦掌の歩法と、掌打で応じる。

 

悪人は一家の娘を誘拐して試合を有利にすすめようとし、戈春艶が腕をふるうことになる。

 

 

 

80年代八卦掌女冠军戈春艳演练八卦掌

武術全能冠軍の戈春艶は、1983年に製作されたドキュメンタリー中華武術八卦掌を演じた。これはその抜粋。製作会社は香港だが、演員は大陸だ。

八卦门“全能王”戈春艳

おなじく武林志場面をふくむ演武。

女子八卦掌冠军戈春燕在全运会上表演游身八卦掌

 

 

幕末浪士みたいな倭寇は許春華

 

武術隊教練が本職の戈春艶は、1992年の武林聖鬥士(东瀛游侠)で再度映画出演している。これは楊麗菁と于荣光が主演の時代劇だ。于荣光は功夫を学びに来た琉球人で興味深い題材だが、終始日本語でセリフをいうのでとてもストレスがたまる。東方不敗のインチキ忍者が「真空斬りだ!」とか棒読みの気合をかけるのは愛嬌だった。それがこの映画では全編つづく。要約つき記事

 

 

救いは戈春艶と于海の他愛もないバトルで、それぞれ虎拳と狗拳の家門の長だからことごとくいがみあっている。ふたりの喜劇演技がいい。楊麗菁は于海の娘だ。

 

 

2004年から戈春艶はシンガポールに定住し、武術センターを運営するようになった。

 

 

楊門女将之軍令如山 (2011)

 

またひさびさの出演で、楊大娘を演じている。大島由加利は楊二娘だ。その他に張栢芝、劉曉慶、鄭佩佩など顔ぶれもいい。戈春艶はなぜか葛春燕として紹介されているが、見せ場はちゃんとある。

キャストは豪華でテンポもよく陳勲奇監督のいかにも香港な奇想もあるのに、それほどの評価がなかったのは敵のほうが楊門より賢く戦うからか。つねに主動をとられてひどい目にあっている。全編

 

 

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一代宗師(2013)で、章子怡八卦掌を指導したのは戈春艶だった。

 

 

1974年北京武術隊 上段右二番目李連杰11才 中段右二番目戈春艶15才で師姐にあたる その下李俊峰隊長

 

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