エルピス アトムの童

エルピス

 

 

渡辺あやが脚本を書いていると知って、エルピスを観てみた。渡辺の火の魚は尾野真千子原田芳雄のすばらしい演技もあって、いままで知ったいちばんすぐれたドラマだと思っている。偶然の視聴で渡辺作品はこれのみなのだが、エルピスは期待どおりの出来えだ。

 

 

 

長澤まさみは報道からヴァラエティーに飛ばされたアナウンサーとして、役どころにぴったりはまっている。この笑顔のうらで、長澤は摂食障害におちいるほどの葛藤をかかえている。

 

 

 

もうひとつの興味は眞栄田郷敦で、プロミス・シンデレラの後半をたまたま観てこれまでいなかった野性味のある役者だと思った。二階堂ふみのたしかな演技と松井玲奈の蛇女もよくて、年の差恋愛にキュンキュンした。

エルピスでは目力をいじられたりコメディーリリーフだが、まだいろいろ引き出しが開かれそうだ。白目がまったく濁っていないのは、CG加工だろうか。

 

 

 

共演者も粒ぞろいだが、なかでも長澤が冤罪事件として追っている死刑囚の片岡礼二郎が印象深い。自由劇場出身のヴァイオリン弾きだそうで、死刑囚にしか見えない。

 

長澤の苦悩はスキャンダルの後遺症だと思わされていたが、「真実のように伝えてきた言葉にどれほどの真実があったのか」というセリフの根拠が原発報道だとわかって襟をただす気になった。

これについてはマスメディアにジャーナリストなどいないのは承知だし、そもそもTVなんか見なくなったし本気にしてないから悩まず飯をちゃんと食ってくれと長澤にいいたくなる。

 

 

アトムの童

 

 

今週も美青年を二人したがえて、いい調子だ。濃いのと薄いので、バランスもいい。世間が許すかどうかは知らない。

 

 

 

とはいえ恋が主題でなくモノ作りの会社をソフト企業に転換する今日的課題が本筋で、アトムの子は誕生するかが物語の動力となっている。

ゲーム作りを画にするのがむずかしいのは想像つく。予算がないとキーボードをたたくだけで、ゲームチェアにもたれてため息をつくくらいしかアクションがない。

以前雨のケーララ3D記事で映像メイキングを紹介したが、ゲーム開発のデモ画面くらい用意してからドラマ製作にとりかかったほうがよかった。玩具デザイナーの社員にC#言語の教科書をもたせるだけでなく、実際にキャラクターの描画を動かさせる場面が必要だった。

それでも絵を描いたりマンガや小説を書くなどにしても、創造生産過程を興味ある映像にするのはむずかしいことだ。

クワイ河架橋工事」であれ「ラッキョウ農家の一年」であれ、生産現場の描写だけではドラマにならない。新奇な映像も、人事のもつれがあってはじめて人はふり向く。三角関係とか私が父親だとか。

 

そこでこのドラマではゲーム制作者に営業をやらせたり、資金繰りの苦労や悪との闘いを見せたがやはり薄味の回だった。

しかしインド人が救世主?全データが消えた?おまえがスパイか!などと終盤で興味を引いたので、次回に期待したい。

 

神は見返りを求めるでいちばん嫌なやつを演じた人が、気弱な善人をやっている。役者はえらいものだ。