天間荘の霊幻姉妹

 

かつての霊幻片スカイハイの派生作品という以外に予備知識なしで観たら、昼の上映で映画館に入って出たとき暗いのでおどろいた。薄明のむこうにキノコ雲でも立ちそうな、不穏な秋空だった。

上映時間が2時間半もあるのを知らなかったのだが、それを感じないほど中身が盛りだくさんで飽きなかった。

現世と来世とのあいだにある旅館と周囲の街を含む世界のシステムが、薄皮をはぐように少しずつ明かされていく語り口が効果的だった。脚本と粘り強い撮影の賜物だ。

 

 

ロケ地の海が魅力的で撮影もよい。旅館も民宿などでない素敵なところで、ほんとに泊まればずいぶん高いのだろう。出される料理も美味そうだった。

宿泊客は三田佳子山谷花純で、三田の演技はいうまでもないが山谷のあやうい風情もよかった。

能年が出るから観たのだが、だれが主演ということでなく大島優子門脇麦の姉妹や登場人物のひとりひとりが丁寧に撮られている。イルカまで演技が達者だ。カメオも驚きがつづいた。

 

 

三田佳子が能年との対談で「なにもしてないみたいだけど、ちゃんと繋がるとすごい」とほめていたが、さかなの子で感じられたことをプロとして的確に言語化してくれた。ただ存在しながら話を引っ張っていく演技を見抜いたのは、さすが大女優だ。

これは二人の姉妹にも言えて、もてなしに徹している。寺島しのぶの母親は大芝居だが、それも結末での役割からくる必然だった。

 

 

監督の北村龍平はVERSUSの才気が記憶にあったが、ドラマのスカイハイも手がけていた。20年前のおどろおどろしい作風から、歳月をへてこのような叙情にみちた周到な大作を撮りあげるまでに変貌した。日本も変わったが。

監督の意図した鎮魂と復興への願いは、じゅうぶん表現されただろう。しかし映画に現実を変える力などはないので日本は三途の川を渡っている最中だし、一部の地域で復興のシンボルと目されている能年はあいかわらず名前を失ったままだ。

 

能年は今年三作出演し、どれも期待を裏切らない充実した年だった。