武運長久

 

いまyoutubeで、ガメラ2の2週間限定公開をしている。特典映像で金子修介監督のインタヴューがある。

作品をひさしぶりに観ると、長年の記憶があやしくなってきた。画像は水野美紀がレギオン掃討にむかう永瀬敏行の自衛官に、別れのあいさつをするところだ。

 

ここで水野は、「ご武運を」と声をかけると長い間思っていた。永瀬はこれに敬礼を返す。公開時の記憶では雪の降る背景で、水野が敬礼とともにこの言葉をかけていたと信じていた。だが10年ほど年月が経ってから見直すと、水野は敬礼などしていなかった。

むかしのことだから、こうした記憶の改変はよくあることだ。見た映画を自分の好きなように、脳内で編集してしまっていたのだろう。政治的には正しくないが、芸術的文脈ではこちらだ。だからかけた言葉はご武運だったと、今日まで思っていた。ところがネット公開版では雪原どころか庁舎の廊下で、言葉も「ご無事で」となっている。

 

ガメラ2レギオン襲来は、特撮からCGにいたる過渡期怪獣映画の最高峰だ。出来事が次々展開する脚本、樋口真嗣特撮監督のアイデアあふれる職人技、さらに金子修介のヒロイン愛が絶妙にからみあった傑作といえる。

なかでもまだ新人で、現在のような怪優ではない水野美紀がすばらしい。怪獣に拮抗する人間側の代表を毅然としてつとめている。札幌の科学館の学芸員にすぎないのに、対怪獣戦では(よくあることだが)重要な頭脳となって永瀬と協働してきた。

その印象から軍人への別れのあいさつは、「ご武運を」として頭の中で定着したのだろう。対等な共闘者だ。「ご無事で」では、すがる銃後の妻になってしまう。ネット版でも心なしか目が潤んで、ウエットな場面になっている。水野は永瀬に惹かれている。

 

ネットで見ると、「武運」と記憶している人は少数ながら存在する。武運と無事は、聞き違いしにくい言葉だ。ここから考えると製作会社の政治的配慮から、軍国調が取りのぞかれたネット版も同時撮影されていて時代に合わせ差し替えられたのではないかと疑いたくもなる。ただ公開前のプロモーション映像はネット版と同じで、こちらの願望にもとづく錯誤の可能性も高い。

 

それはそれとして、少し画像を貼りたい。

 

 

水野は怪現象の目撃者として永瀬と邂逅する。

 

 

 

ふだんはプラネタリウムのレンズ交換などをしている。

 

 

 

実家の薬局の自室で、自衛官吹越満のNTTエンジニアを交えた対策会議を開く。こういうところが、この作品のよさだ。

 

 

 

ガメラの登場を目撃する。この演技は樋口監督にほめられたという。

 

 

 

防衛庁に乗り込んで自説を展開する。1996年だから、まだ省にはなっていない。

 

 

 

出張先なので、お風呂にもちゃんと入る。地球防衛軍では、入浴中の河内桃子の横をモゲラが移動していた。

 

 

 

ガメラとレギオンの戦いが始まると、もう一人の欠かせないヒロイン藤谷文子とともに祈るしかない。

 

 

 

ガメラ元気玉を集めるのに気づく。水野はブレインであり証人でもある。

 

 

 

戦いが終わり「ガメラの敵にならないようにしないとね」と締めくくる。ガメラが護るのは地球であり、人間ではない。

 

 

おまけ

ギオンが最初に出現した現場。札幌人は冬でもミニだ。

 

監督の趣味。こういったショットのおかげで、むさくるしい映画にならずにすんでいる。

 

藤谷の味わい深い棒読みが、ガメラシリーズの特典となっている。

 

視線の先には棒につけた布きれがある。

予告水野編

 

 

荷風の断腸亭日記1941年6月11日記事に、オペラ館芸人が戦地に行くことになり武運長久の揮毫をもとめられたとある。荷風は、この語も今は送別の代用語になったと思えば深く考えるにもおよばず直に書いてやった、と記している。やはり武運の語に引っかかりがあったのだろう。敵を殺すことを意味するからだ。