岸井ゆきの/新作映画

 

ひどい言われようだが、この通りだからしょうがない。現在公開中の岸井ゆきのの「神は見返りを求める」は、youtuber岸井の苦いサクセス・ストーリーだ。

監督の吉田恵輔は「純喫茶磯辺」で才能ある人だと思ったが、この作品もよく出来ている。といっても14年ぶりに吉田監督作を見た。新人のすぐれた作品を見ても、これ以上のものはもうないだろうと思って以後はたいがいパスしてしまう。

これも岸井主演でなければ、縁がなかっただろう。

 

見て楽しいとか、幸せになるとか踊りだす映画ではない。主人公はとても痛い人間で、岸井以外の誰に演じられるか見当がつかない。「復讐者に憐れみを」のころのペ・ドゥナあたりか。

岸井はコールセンターで働いていて、あれはとても感情を搾取される仕事のようだ。たぶんその代償でyoutuberを始めている。一輪車に乗りながらナポリタンを食べたり、あまりぱっとした存在ではない。視聴も4千回あたりで、収益化など遠い話だ。

 

このブログでもインドやダンスがらみでyoutuberを紹介している。海外で成功した人もいれば、つつましい内輪のメディアとして利用している人もいる。海外組は単価が安いから、それほど儲かっているわけではない。国内成功組は李姉妹だが、会社員時代の収入と同じくらいらしい。

時代の寵児としてのyoutuber長者は、まったく未知の世界だ。芸能界のピンハネがないので、相当な利益になるようだ。

岸井は底辺だったが、優しい協力者があらわれて徐々に軌道に乗ってくる。

 

 

 

新興メディアでのスター誕生の話で、旧メディアである映画の側からの切り取りだからたっぷりと悪意に満ちている。幸福の絶頂から絶望の谷底へのようなメリハリを利かせた通俗娯楽作品ではなくて、最初からひとりの協力者をのぞいていい人間は登場しない。役者はみなうまい。監督の腕だが、どうして俳優はいやな奴らを演じるとこうも達者なのだろう。

 

日本映画界はたいがいブラック産業で、監督俳優とも映画だけでは食っていけないらしい。どこからかやっと資本をかき集め、イモヅル式にスタッフなどふくめ膨大な人々がそれにすがりついているのだろう。かつての映画製作所は合理化の末、人格もエゴもないアニメキャラから利益をえている。

吉田監督のyoutubeへのまなざしは、そうした逆恨みの怨念にみちているようだ。こういう映画はあつかう話題が新奇だし、他人の不幸は蜜の味の国際映画祭などで評価されるかもしれない。

 

岸井はNGのない俳優として重宝されているのだろうか。何でもやれてつねに存在感があるが、役柄には既視感がある。