インドの水牛

 

インド水牛の平均体重は1トンで、乗用車に相当する重量がある。聖獣のほうのインドコブ牛は最大400キロだから倍以上だ。水牛は食べるのもタブーではない。魔神マヒシャースラは水牛で、牛魔王のモデルは隻白牛(コブ牛)だ。

 

水牛

 

コブ牛 タミルの牛追い行事 Jallikattu

 

日本公開もされたマラヤーラム映画ジャッリカットゥ (2019) は、山村の肉屋からジャングルに逃げた水牛をひたすら追う話だ。ジャングルの語はサンスクリットあるいはペルシア語のジャンガラから来ていて、まさにジャングルの本場といえる。

その濃いジャングルのなかを、100人以上の村人たちが追いかけまわすさまは迫力があった。監督、撮影、編集とも高度な技術の産物で、サンダル履きで密林を駆け回った演者ともどもたいへんな労苦を強いられたにちがいない。

しかし追跡はまったく無計画で、やみくもに集団で走っているだけだからすぐあきてしまった。

 

 

 

唯一興味をひいたのは、逃げまどっているうちに井戸に落ちた牛を引き上げる場面だった。

直径4mほどの井戸のまわりに4本の柱を立て、その上に2本の梁を交差して渡していた。

 

柱1本ごとの垂直荷重は250kgで、じゅうぶん耐えられる太さの木が立てられた。

 

 

梁は交差部分に滑車をつけ、作業者を吊るのと吊り荷を介錯するロープを垂らすのに用いられた。

 

 

ロープで作業者を降ろし、水牛の四本足にそれぞれロープを結んだタイヤを通した。

 

 

4本のロープと、滑車を通したロープの計5本でタイヤで吊られた牛を引っ張り上げた。各ロープは200kg荷重としても、1回の作業に耐えられる太さだった。タイヤも用途は違うが、強度は十分だ。

村人が100人なら各自10kgの負担で、音頭取りの掛け声にあわせ組織だって慎重に引き上げた。

 

 

とちゅうで雨が降り出し手が滑る問題はあったが、無事に井戸の上まで吊り上げた。ところが荷受けが厚さ5cmほどの板を二枚ならべただけだった。とても1tを乗せる材質ではなかった。

 

 

しかし牛は板に足をかけると、折れるまえにすぐに逃げ出してしまった。またふり出しにもどった。

 

 

引き上げたあとどうするかの計画はないようだった。そもそも井戸にいるうちに大きな岩でも落として、殺してから解体すれば荷上げの苦労もなかった。もっともそれでは、動員された村人たちの熱狂は鎮まらなかっただろう。

 

原作は Maoist という小説で、ナクサライトが隠喩としてふくまれているらしい。しかし比喩が隠れすぎて、観てもネットで調べてもどんな話なのかわからなかった。ケーララ州では大ヒットしたので、刺さる人には刺さるのだろう。

 

だから批評する立場にはないが、ラストで洞窟の原始人が出てくるのはまちがっている。人間の原始性をいいたいのだろうが、理知的な狩人として何万年もの生存競争を生き延びた先祖とフーリガンみたいな現代人を比べては失礼だ。

 

 

パンドラ最終章

 

いよいよ結末に向かい、今回は無敵遺伝子と不老ウイルスの結合が発端になっていた。ゴジラビオランテみたいな話で、なんの真実味もないがジワジワといやな感じが伝わる演出でよかった。誘拐や追跡や大渋滞などもあってあきさせない。ユッキーとおディーンのやりとりもベタベタしないところがいい。