少女はつらいよ

「コタケがいじめたよ~シクシク」

 

センセイ君主 (2018)で浜辺美波は、ほとんどこんなひどい顔をしている。顔値全振りの人なのにこれでは、他の誰が主演でもよさそうではないか。

桐谷美玲の「ヒロイン失格」では、お人形さんのような主人公が醜い本性をときどき表情であらわしそれがギャグになっていた。浜辺は四六時中この調子なので、笑うより引いてしまう。

しかしこれには深い意味があって、映画はほんとうにくだらないラブコメなのだが何か重要な真理を描こうとしているのではないかと錯覚を生じさせる。

 

浜辺は7回目の告白失敗を経たところで、少女の寅さんだ。

寅さんはふられてもふられても立ち直る。流浪の行商人で行き交う人は流れる景色のようなものだが、ときどき無縁に疲れて故郷に帰る。かりそめの定住民となると、眼前の女性がマドンナに見えてくる。しかし価値観がまるで違うのだから恋が成就するはずもなく、また旅立つことになる。自由になるとまた元気をとりもどして商売にはげむ。このくりかえしだった。

この映画のヒロインを突き動かすのはホルモンで、春の開花はめでたいことだが脊椎動物の場合はかなりみっともない。浜辺はサカリがついた山猿や酔象のようなものだから、その勢いはだれも押しとどめることはできない。コングは女を抱えて摩天楼に登り、「初恋の来た道」の章子怡は教師に焦がれてむやみに野原を走り回った。「あの頃、君を追いかけた」では男が陳妍希を10年間追いつづけた。

 

 

 

浜辺の相手は数学教師で、冷徹に教え子のアタックをブロックしていく。手を出したら身の破滅だから当然だが、犯罪教唆をしているなどと気づかないヒロインはつぎつぎと攻撃をくりだす。その姿が猿にしか見えなくても不思議はない。

ところがその熱量が少しずつ人間計算機を侵食していく。浜辺もまた攻防をひろげるうちに知恵が回復し、表情もちょっとずつ賢くなってくる。

 

 

 

そこに教師の初恋のピアニスト新川優愛が登場し、浜辺はすべてにおいてかなわないライヴァルに嫉妬すると同時に教師の過去の挫折も知る。この触媒によって化学反応がどう変化するかが後半部だが、猿は人となり結末は納得のいくもので後味がいい。何より、人を思う強い気持ちの価値に気づかされることになる。

ただこの危険なヒロインが眼前にあらわれたら、たとえ浜辺美波でも全力で逃げる。

 

映画『センセイ君主』 特報

 

『センセイ君主』×TWICE オリジナルMV【主題歌:I WANT YOU BACK】