さよならマエストロ

 

芦田に笑顔がもどってくる回だった。まだ明かされていない細かいいきさつはありそうだが、根本的な事情はわかった。娘は父親の背中を追ってきたつもりだったのに、父のように内部から音楽が湧き出る人間ではなかった。ただヴァイオリンが上手くなっただけだったと気づいてしまったことが、音楽から距離をとりたい理由だった。

コンクールで勝てる腕前になるには、人生の多くを棒に振らなければならなかったはずだ。しかし、その価値はあったのか。15才でやり直すのは、実はちょっと遅い。

自分はラマヌジャンのように数式が自然に浮かんでくる人間ではないと知ったら、いくら世間は評価しようが全力で数学から逃げたくなるだろう。それが父親なら、絶望と愛憎はなお深い。

ただお気楽なドラマだから、話はそこまで深刻にならない。芦田のキャリアと重なる点はスリリングだが。

 

 

 

富士の裾野を歩く芦田は小さい。

 

 

 

家を出て父親から離れ、だんだん笑う顔が増えてきた。

 

 

 

ほんとうに好きなものを、見つけようとしているところだ。それが男か別の何かかは、まだわからない。