1970年代のアブー・ヌワース庭園
アブー・ヌワースの生きたバグダードは、当時世界最大の大都市だった。詩人の悦楽退廃への傾斜は、近代に先駆けた都会精神の生んだものだ。アラブの最初のガザル詩作者のひとりでもある。その詩が伝統的に受け継がれた気配はないが、過激で不敬すぎたのだろう。そのかわり伝説的人物としてイスラーム世界に広く名が残ることとなった。
いま受け入れられているヌワース像は、悔い改めた罪人としてのものだ。晩年はあきらかでないが、獄死したともいわれる。
itiraf syair abu nuwas はマレーシア歌手 Nada Sikkah による美しい許しの歌
khamsa(The Khamriyat of Abu Nuwas) はチュニジアのジャズ歌手 Dhafer Youssef の解釈になる飲酒の歌(khamriyat)
2008年のシリアの連続ドラマ Bahloul はバグダードの市井に生きる変わり者が主人公で、ハールーン・アッ・ラシードや歴史的人物が町民たちとともに登場する。コメディーがかっていて、たぶん千夜一夜でのアブー・ヌワースも下敷きになっているのだろう。詩人が登場する回では、ハリーファの前で詩を披露している。シリアにこういうドラマが多いのは、世俗主義だからだろう。
アブー・ヌワースの名はバグダードの公園や通りの名になっている。ティグリス川沿いの公園には銅像もある。2003年の米軍の侵攻では戦いの場になり、帝国の暴兵たちによって蹂躙された。敗れたイラク兵たちが、ヘルメットを捨てて河川敷を走って逃げる光景をTV画面で見ていた。現在は修復や復興が進んでいるが、帝国があるかぎり平和はたしかなものではない。