あの日々の Dhak Dhak

 

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3月8日は女性デーとのことで、それ以外は男の日々になる。

 

200年前から進行中の産業革命は、1万年前に始まった古代農業社会のまどろみを転覆した。なりゆきからすれば、生殖革命を通じて原始的あるいは古代的な男女の分業はやがて廃止されるだろう。

生産の観点からいえば、すでに機械化によって男女の差異は幻想的イデオロギー的な古代遺制になっている。それでも米大銀行調査機関によれば、男女の経済格差解消にはあと200年かかるとのことだ。一年に一日ずつ女性の日が増える勘定だが、あまり実感にはそぐわない。いつか爆発する。

 

それでも春は訪れる。古代と近代のあわいに揺蕩するインドの Yeh Un Dinon Ki Baat Hai 「あの日々のこと」は、2017年9月からSONY TVで放映しているヒンディー語ドラマだ。毎回20分、現在382話まで続いている。時代設定は1990年代で、主人公たちが16才のときから物語はスタートしている。

 

去年7月の episode217で、主役のナイナーとサミールが初めての映画デートをすることになった。そこで上映していたのがマードゥリーの「ベーター」(‘92)で・・というところからドタバタになる。


「授業に出るから」とだまして振りきった友人も映画館に来ていて、おまけにナイナーの伯母夫婦まで居合わせていた。
「あのころの映画デートは、パーニーパットの戦いのようなもので、どうやって手を握るかの攻防が毎回あった。」と現在のサミールの回想ナレーションがはいる。
そこで映画を観ながら泣き笑いするうちに dhak dhak karne laga の音楽がかかり、名高いマードゥリーの「アウチ!」のひと声が響き、あとは徐々に官能的なダンスに引きこまれて心狂おしくなるサミール、それを気味悪そうに見守るナイナーが描かれる。

 

あいにくtubeのクリップでは「著作権上」音楽がカットされているので、あまり面白さは伝わってこない。このあとナイナーは伯母夫婦(自分たちは観ながらイチャイチャしていたのに)に見つかってひっぱたかれ、サミールは「男友だちと来た」と言い逃れに成功するものの、初デートはさんざんな結果に終わったのだった。

 

「当時をよく再現している」と高い評価を受けている人気ドラマらしいが、映画館はずいぶんきれいだし、観客はおとなしく鑑賞しているし、はたしてこんなことがありえたかと疑問が生じた。当時のセンセーションからすればたぶん絶叫上映で、恋人同士のドラマなど吹き飛んでいたはずだ。


「ベーター」はいちおう家族劇だとはいえ、dhak dhak は全インドを震撼させていたので、なにも知らずに映画館にいくことなどないだろう。だいたい90年代初頭の地方都市で、学生の映画デートなどありえたのだろうか。今もつづく「パーニーパットの戦い」に笑いのスパイスをきかせるため dhak dhak が使われたのだろうと思う。
ひるがえって今のカップルは、布面積少なくジャタックス・マタックスだらけのダンスシーンを、いっしょに観にいったりするのか。そして女の子は劣情にかられたアホな相手を見て「この人キモイ」とか思うものだろうか。

 

マードゥリーの出ている Total Dhamaal が好調で100カロール超えした。しょうもない金満コメディーみたいだが、昔のマードゥリー映画もほとんどはしょうもないものだ。子供たちに自作を見られるのは「気まずい」と本人も語っている。「ベーター」は名作のうちに入る。なかでも dhak dhak karne laga   は作曲イライヤラージャー、振付サロージ・カーン、そしてマードゥリーと三つの偉大な才能が結びついた作品だ。

 

昨年No.1ヒットの Sanju で主役のランビール・カプールを誘惑する女優のモデルがマードゥリーと噂された。製作者は否定しているが、場面はいかにもなエロさで思わずニヤついてしまった。

 

(旧インドの踊り子引っ越し完了。2006から2019年期間の記事だが、西遊開始後のインドの踊り子タグは廃止の予定)