1984年製作の大陸功夫片である木棉袈裟は、いろいろ特記すべきことが多い。モンゴル遊牧民の姉妹を演じた四人はそれぞれ武術隊員で、とりわけ高佳敏は太極女皇と異名をとった。
四人ともそれなりに演技ができているのは、内外で表演の機会が多かったからだろうか。高佳敏は日本公演にも参加している。
ただ残念なことに、四人の映画出演はこの作品だけだ。
中央の末妹役高佳敏は世界武術賽冠軍、左の長姉役林秋萍も全国冠軍で太極之花と呼ばれた。
少林寺 (1982) の于海ももとは武術隊隊長だが、表情に味わいがあって専門俳優となった。
木棉袈裟は1982年の少林寺の成功を受けて、香港の才人徐小明が招かれて監督した。話も少林寺によく似ている。林秋萍は少林僧の徐向東に恋してしまうものの、僧侶であるため結ばれることはない。少林寺では丁嵐が李連杰をさびしくあきらめるが、林秋萍は最後まで許さず怒っていた。
徐小明は李賽鳳ゆかりの人で、李賽鳳を見出し大地恩情で初の大役を与えたのが同ドラマ製作監督の徐小明だった。広東オペラ粵劇の子役出身で武師でもあり、李賽鳳に北派功夫を教えた。後にも役者として共演したり、出演作の水玲瓏を製作し衛斯理之霸王卸甲では監督もしている。陳勳奇とならび称される多才な人で、歌手としても成功している。
題名の木綿袈裟は映画では汚い布だが、嵩山少林寺開祖とされる菩提達摩ゆかりの品だ。伝説では釈迦が着用した金襴袈裟だったといわれる。達摩は6世紀に来中した南天竺カーンチプラム出身の人との説がある。
中国に木綿が舶来し綿布の生産がおこなわれるようになったのは宋末元初のことなので、伝説が真なら最古の綿製品となりこの点でも貴重だ。日本には綿は戦国時代に伝わっている。
話は武当派を裏切り明の錦衣衛に仕官した于栄光が、僧になりすまして少林寺を乗っ取るところからはじまる。于栄光はこれが初演だが、主役の徐向東より出番も存在感もある。徐向東は武術界の最高学歴者といわれ、パリ大学に留学しフランス電力公社武術隊の教練をつとめた。李連杰のような愛嬌や表情には乏しく、役者としては于栄光ほど成功しなかった。
少林寺方丈は僧たちの生命と引き換えに焼身したが、寺宝の木棉袈裟は徐向東と少年僧たちによって持ち去られ寺の完全掌握はできなかった。于栄光は袈裟をもとめて、どこまでも追っていくのが主筋となっている。
徐向東は遊牧民たちに助けられるが、族長は于栄光たちに殺されてしまう。四姉妹も復讐のため合流して少林寺に乗り込み、最後の対決となる。
武当山にも立ち寄り、林秋萍と徐向東は于栄光打倒の技を伝授される。
高佳敏、林秋萍、徐向東ら。武当山道士と少年僧たちもいる。
めでたしめでたし。