パーキスターン映画 90年代スーパーヒット集

Madam Rani (1995 パンジャービー/ウルドゥ)

スーパーヒットと主演女優の踊りを指標に映画史をたどってきたが、90年代はその方法ではうまくいかない。もちろんヒットしたからよい映画というわけではないし、踊りがいいから作品も素晴らしいものでもない。多くの人の目にふれたという事実から、パーキスターン映画観客の趣味を知れるという利点はある。

 

スーパーヒットの年代ごとうつりかわりを見ると

60年代52本 70年代76本 80年代58本 90年代26本

と半減している。

製作本数は

60年代713本 70年代1019本 80年代841本 90年代729本

で60年代水準にもどった。(00年代492本 10年代351本)

(数字はPFM)

 

前回に引きつづき映像紹介するが、スーパーヒットを追っても散漫なものになる。顔ぶれも傾向も80年代とはちがうし、衰退過程のとりとめのなさを感じる。 

 

スルターン・ラーヒー映画は、96年の突然の死去までリストの常連ではある。

Siren (1990 パンジャービー) Sher Dil (1990 パンジャービー) Kalay Chor (1991 P/U) Dillagi (1992 パンジャービー) Zindagi (1992 P/U) Majhu (1992 パンジャービー) Paidagir (1993 P/U) Bala Peeray Da (1994 パンジャービー) Madam Rani (1995 P/U)  Sakhi Badshah (1996 パンジャービー)

ただ本数が激減しているし、パンジャービー/ウルドゥ両吹き替え映画が半分近い。これはパンジャービー映画の集客力が落ちたため、2言語版にしないと映画館を埋められなくなったということだろう。南アジア映画の柱である歌や音楽は言語がちがうと威力が伝わらなくなるから、この策がどれほど効果があったかはわからない。

 

スルターン/アンジュマン共演映画は、117本にものぼる。これはさすがにあきられるだろう。仁義なき戦いの脚本家笠原和夫は、映画屋は当たるとおなじものを作りつづけると書いていた。マウラー・ジャットは興行主に買い付け金の100倍以上の収益をもたらした。そんなやくざな産業はほかにない。映画の未来など考えず、ひたすらおなじ趣向の作品がもとめられた。

 

広東語映画は1960年に突然武侠ミュージカルがブームになり、以後10年にわたって同工異曲のものを生産し作品はあきられた。ブームを支えた陳寶珠と蕭芳芳は少女から大人になり、ふたりは留学し粤語片は終焉をむかえた。ただ李小龍成龍ら新世代はすでに育ち新しい港産片が生まれていった。

 

パンジャービー映画はウルドゥ映画凋落のあとラーホール映画産業で孤軍奮闘したが、スルターンのあとを継ぐ者は不在だった。その突然の死は観客の幻滅と製作者の士気阻喪をもたらし、ラーホール映画製作のおわりにつながったのだろう。

 

一方、90年代にはウルドゥ映画でスーパーヒットが連発し、パンジャービーの倍にあたる。ただ製作はラーホールなのは以前とおなじだ。

ウルドゥ圏の映画館数は前回見たように激減しているから、この「スーパー」にどれほど客観性があるのかはわからない。1988年の突然の軍事政権終焉で、映画に自由がもどって息を吹きかえした影響はあるだろう。ウルドゥ圏視聴者がヴィデオで見なれた、ヒンディー映画っぽくもある。

 

Mr. 420 (1992 ウルドゥ) Hathi Meray Sathi (1993 ウルドゥ) Jeeva (1995 ウルドゥ) Munda Bigra Jaey (1995 ウルドゥ) Jo Dar Geya Woh Mar Geya (1995 ウルドゥ) Khilona (1996 ウルドゥ) Chor Machaye Shor (1996 ウルドゥ) Ham To Chalay Susral (1996 ウルドゥ) Hawaen (1996 ウルドゥ) Ghoonghat (1996 ウルドゥ) Deevanay Teray Pyar Kay (1997 ウルドゥ) Nikah (1998 ウルドゥ) Inteha (1999 ウルドゥ) 

 

 

90年代スーパーヒット映画

 

www.youtube.com

Siren (1990 P) 

芸歴の長い Kaveeta 演。

 

 

www.youtube.com

Mr.420 (1992 U) 

TVコメディアンのウマー・シャリーフUmer Sharif が主演した。

 

 

www.youtube.com

Munda bigre Jaey (1995 U)

主演のジャン・ランボーはTV男優で、人気ドラマの役名を芸名にした。踊りは達者だ。音楽はヒンディー映画のパクリ。

 

 

www.youtube.com

Madam Rani (1995 P/U)

ナルギースとリーマー・ハーンが、巴映画屈指のダンスバトルを見せる。スルターンも出るが主役はアンジュマンで、その御前で踊る。この曲はヒンディー映画がパクった。

模倣は両者おたがいさまだがスーフィー歌謡は本場の巴から、モダンな曲はヒンディーからのことが多いようだ。元をただすとさらに果てがなかったりする。

 

 

www.youtube.com

Sakhi Badshah (1996 P)

リーマー・ハーン演。スルターン遺作で、死去直後に封切られスーパーヒットとなった。バーブリー・マスジッド破壊事件(1992)に対する愛国感情も背景にあるらしい。

 

 

www.youtube.com

Nikah (1998 U) 

1977年のブロックバスター Aaina の再映画化で、リーマーとシャーンがいかにもウルドゥ映画な大メロドラマを演じている。

 

 

www.youtube.com

Choorian (1998 P)

ナルギースの踊り場面は、ヒンディー映画の影響が強く感じられる。サーイマがシンデレラの結婚ドラマで、90年代ゆいいつのブロックバスターとなった。おなじく女性主導の Nikki Jei Haan (1999 パンジャービー) とともに、パンジャービー映画の新方向を示すかと思われたが長くはつづかなかった。

 

 

パシュトー映画では Lur Da Sheitan (1996 )とYawa Gunah Bala Sahi (1996 ) がスーパーヒットになっている。