宝箱はミミック(5)

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臥虎藏龍(グリーン・デスティニー)で鄭佩佩が演じた碧眼狐狸は、「女として抱くだけで技術をなにも教えてくれなかった」と武侠の師父を恨んだ。それで師匠をブッ殺して秘伝書を奪い逃げている。ところが内容を理解できなかったので、技は少しも身につかなかった。

ブッ殺されても当然の師匠だが、弟子が周潤發で師父の仇を取らなければ江湖でやっていけない。それで最後には残念ながら鄭佩佩は殺されてしまうのだが、相打ちに持ちこんで周潤發も還らぬ人となるのだった。

 

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碧眼狐狸は「心很毒辣、老奸巨猾、熟练暗器毒镖的一个江湖狠角色 」とひどいいわれかたをしている人物だが、 碧眼とあるように少数民族出身で強くなりたい動機と性的に搾取された怨念があったのだろう。

これに対し周潤發の李慕白は、善玉側だが義務に生きるだけの退屈な人間だ。腕が立つので、つねに人に対し上から目線になる。唯一人間性が感じられるのは楊紫瓊への愛情で、相手が師姐にあたるためこの話の規範では疑似的近親相姦となり一線を画している。最後は楊紫瓊の腕の中で死ぬので、幸せになれたのではないか。

と書いてきたが、映画の脚本は美国人なので西洋的に解釈された武侠映画となっている。どこかが変だ。愛情表現も欧米的だ。このため香港や大陸では当たらなかった。しかしおかしな理屈をこねなければ、これほど視覚的によくできたおもしろい武侠映画はない。李安と袁和平による二十世紀功夫武侠映画の決算になっている。

 

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鄭佩佩は「大酔侠」で武侠映画の画期をもたらした人なので西遊で取り上げる予定だが、この映画では汚い婆さんで気の毒な登場だった。