テヘランと風紀警察

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昨日upされたテヘラン映像では、グランドバザール周辺のにぎわいが映しだされている。街路にひろげられた屋台で軽食をとる人たちとか、前回記事とはまたちがった光景が見られる。気候がよくなったせいか、人出がものすごく多い。

 

しかしいちばん昨年と異なって目立つのは、ヒジャーブをかぶらない女性がふえていることだ。これは9月に風紀警察に拘束されたあと死亡したクルド女性と、その後の抗議活動の影響だろう。事態にショックを受けた政権は、風紀警察を解散してしまった。警察の下部組織で、運用があいまいだったという理由のようだ。

 

テヘランはヒジャーブについてはゆるい街で、トルコの地方都市のほうが厳格に思えるくらいだ。ことに金持ちの多いテヘラン北の山の手では、非着用者が多い。

しかし首都であること、クルド女性だったこと、場所によって適用がちがうことなどがあり一気に火の手があがった。

 

なんといっても大きいのは、ヒジャーブ警察が嫌われていたことだろう。風紀委員が好きな人などいない。1979年の革命のあとホメイニー師は、共和国は私事には介入しないと声明した。イスラームそのものも本来信仰を強制するような宗教ではない。地獄にいきたければ好きにしたらいいという立場だ。

しかし革命後の政争やイラクとの戦争、海外の制裁などをへていろいろと窮屈になったようだ。

 

 

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そうした警察への感情の一端をうかがわせるのが、2012年映画の گشت ارشاد ガシュト・エルシャード風紀警察だ。(英字幕付 検閲で15分ほどカットされている)

これはコメディーで、テヘラン下町出身の三人の底辺が主人公だ。山の手の空き家の豪邸の一室を不法占拠し、そこを根城に風紀警察といつわって市民を恐喝し金品を得ている。それぞれ過去があるらしく、リーダー格の禿げ頭は戦争の英雄(たぶん対イラク戦争)だったらしい。若いのはかつて麻薬がらみのトラブルに家族がまきこまれたようで、血を見ると発作をおこす。カツアゲした金をジャンキーの父親にとどけている。

 

三人はワゴン車(トヨタ)に乗って街や公園に出かけ、警棒や無線を使ってそれらしく装い市民を脅している。小ネタがあちこちちりばめられ、女友である学生が原子物理学専攻だったりする。はいているパンツの柄は、星条旗ユニオンジャックだ。うっかり下着で人前に登場し、敵を尻に敷いているのだといいわけする。法学部の学生に反論され、その理屈をそっくりまねて本物の警察に対してまくしたてて逮捕の危機から逃れたりする。「ツアラトゥストラかく語りき」の一節を暗誦してスケコマシをしているオヤジから、いつも金をむしり取っている。

そうしたインチキ暮らしと並行して禿げ頭の女友の看護師が陰謀に巻きこまれ、後半は男たちの挽歌のような展開になる。といってもやはりヘタレでまぬけなのだが。

 

厳格主義者からの批判で公開館数も日数も減らされたが、大人気でその年の興行第三位となった。イランの2つの映画祭で受賞もしている。シリーズ化されて2016年と20年にも続編が製作された。

細かいギャグなどわからないことは多いのだが、風紀警察が嫌われていることだけはよく伝わる。