2年前に亡くなったインドの人間国宝、サロージ・カーンはパーキスタンーン映画にも何回か振付を提供している。
サロージはカラーチー生まれのスィク教徒出身で、家族は分離後にインドに渡った。
幼いころからダンスの才能をあらわし、1953年の Aagosh でのラーダーぶりを見てもすでに立派なプロだ。
若いころからダンサーであるとともに、師匠で夫であるソ-ハンラールの助手として振付も手がけていた。振付師として名声を確立したのは1986年の Nagina で、それまでは下積み時代だった。
その無名の1979年に、パーキスターン映画 Josh の振付をしている。
この時はすでにムスリム実業家と再婚し、サロージ・カーンを名乗っていた。
友達らとラーホールに旅行し、そこで現地の監督と接触する機会があり振付を頼まれた。
冒頭にかかげたのは Josh のタイトル画面だ。印パ戦争から日も遠くないころでもあり、Shahnazの偽名をもちいた。でもカッコでSarojとも記しているから、あまり意味はなさそうだが。
Josh ではラーニーを振り付けている。他にムハマド・アリー、バーブラ・シャリーフ、シャーヒドらの出演で、マカロニウェスタンの翻案らしい。映画の真ん中すぎにラーニーとバーブラのプロレスがある。
とびきりの作品というわけではないが、曲も踊りもいい。
サロージが一連のマードゥリー作品でピークに達した1990年代後半、1997年にマードゥリーの Dil To Pagal Hai と愛国映画の Border が激突した。国内は後者、世界総計では前者が1位を獲得した。
Border は1971年の印パ戦争を舞台にし、挿入歌の ghar kab aao gay (帰郷)がヒットした。
2000年にパーキスターンで、同じ名をもつシャーン主演の Ghar Kab Aao Gay が製作された。こちらは、イスラエルとヒンドゥー過激派のテロとのたたかいが題材だった。
サロージはこの作品に振付している。
踊り手はヌールNoor で、子役として映画界入りしている。どういう背景で技術を身につけたかわからないが、古典の素養があるようで達者だ。東南アジアにロケし、サーイマや Meera 、Sana らも踊っている。
ついで2002年の Yeh Dil Aap Ka Huwa はサロージ振付だけでなく、歌の吹き替えもカヴィター・クリシュナムールティーやインドの有名歌手が参加している。スイスやスペインなどにロケし、パーキスターン映画としてははじめてロンドンや欧州諸国で公開された。たぶん9.11と対テロ戦争とかが製作背景にあったのだろう。
スイス在住パーキスターン人のおしゃれな恋物語で、まったく南アジア的要素はない。歌も踊りもヒンディー映画っぽい。
2005年にもリーマー・ハーンの監督主演映画 Koi Tujh Sa Kahaan に招かれた。ここでも ウディット・ナーラーヤン や アルカー・ヤーグニクらインドの人気歌手が歌声を提供した。
この作品も東南アジアが舞台で、パーキスターン色はない。
現在netflixでマードゥリー主演の The Fame Game が配信されている。愛と苦悩の大スター物語だが、その一場面でサロージがアンジャーム(1994)で振付した豆畑を踊っている。