パーキスターン映画コレクターである Guddu Khan のお宝
2016年7月に船井産業がVHSデッキの生産をやめたとき、パーキスターンのThe Express Tribuneに2つの記事が書かれた。
VTRの終焉では「90年代のパキスタンのレンタルヴィデオ業界は、実際の映画館を持たなかった世代にとっての映画館だった。」とされている。
ただそこで見ることができたのは、インド映画とハリウッド映画だった。だから映画産業再生のバネになることはなく、残存する映画館はさらに滅亡の道をたどるしかなかった。
VTRはパーキスターン人にとって何を意味したかでは、ヴィデオテープレコーダーがなくなることで結婚式ヴィデオという新文化が中絶することを示唆している。VCRの普及とともにはじまった人生の記録に、再生のすべがなくなったことに困った人は多いのだろう。
また80-90年代のヴィデオブームは、景気のいい中東への出稼ぎによって潤った家庭が支えたとも記している。ヴィデオレンタルという新たな業態も生み出された。カセットだけでなくデッキそのものも日貸し時間貸しされたという。
2つの記事は、カラーチー基盤の新聞に掲載されたものだ。映画の衰退とヴィデオの伸長という現象は、ウルドゥ映画圏でぴったりあてはまる。
因果をさかのぼれば、軍事独裁政権による抑圧でもっとも被害の多かったのはウルドゥ映画だった。都市中産階級は自由に表現できなくなった映画にそっぽを向いた。映画館も女性や家族がいける快適な場所ではなくなった。
映画人は意気阻喪し、TVなど新興メディアに転じた。PTVパーキスターン国営放送は、ウルドゥ映画のテーマである愛や家族をめぐるドラマで定評をとるにいたる。
映画について何か書こうという層はウルドゥ圏の教育ある小市民なので、パーキスターン映画の衰退をウルドゥ映画のそれとかさねがちだ。パンジャーブ州には目もくれない。パンジャービー、ウルドゥ両圏にまたがって大ヒットした映画は数少ない。
実際はパンジャービー映画の存続によって、ラーホール映画産業の滅亡までは10年の時間差が生じている。だが片翼が失われ、パーキスターン映画はじょじょに墜落していくしかなかった。
2023年の現実としては、ネット時代となりVCRにかわるDVDも死滅しつつあるようだ。全国のレンタルショップはすでに46店しかない。