荷風マイナス・ゼロ (65)

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清水港代参夢道中 (1940 日活 マキノ正博監督)

 

映画嫌いだった荷風葛飾情話の上演を機に、あたらしい分野に関心をもちはじめる。浅草交響曲の映画化は実現しなかったが、のちになっても音楽映画左手の曲を構想している。

1940年当時どんな映画が作られていたかというと、同年の清水港代参夢道中(続清水港)はマキノ正博監督で荷風が大嫌いな浪花節を使ったミュージカルで天敵の広沢虎造が出演する佳作だ。

主演は片岡千恵蔵で、ミュージカル清水港の演出家の設定だ。舞台が思うように仕上がらなくて、秘書の轟由紀子に八つ当たりしている。疲れて眠り起きると、そこは清水港で片岡は森の石松になっていた。当時タイムスリップのアイデアはゆきわたっていないため、夢道中が演じられることになる。

自分が昭和から来たといっても、許嫁の轟には信じてもらえない。子分たちからも、頭がおかしくなったと思われる。次郎長は気晴らしと静養のため、金毘羅代参を言いつける。ところが浪曲物語では旅の途中で、石松は殺されることになっている。片岡は必死に抵抗するが聞いてもらえないところに、轟が一人旅で死ぬなら自分が同伴して二人旅になれば運命は変わるのではとアイデアを出す。そこで二人のロードムーヴィーがはじまる。

時代を先取りしたプロットだけでも面白そうだが、片岡の演技がよく轟のヒロインも魅力的だ。子役で後の長門裕之も初出演している。マキノの才気があふれ、浪花節や音楽の入れかたにも軍国調はない。1時間半でのんびり見られるので、荷風にもおすすめできる作品だ。

 

マキノ作品といえば、カルトになっている鴛鴦歌合戦がいい。

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1939年のお気楽な小品だが、日米戦争の影などみじんも感じられないジャズオペレッタだ。冒頭ディック・ミネ殿様の歌がしゃれている。志村喬茶碗の歌も、渋くてうまい。

 

 

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轟由紀子は元宝塚のスターで、マキノ監督作のハナ子さん (1943)で歌って踊っている。ただしこれは現代のカラー化版だ。マンガ銃後のハナ子さんの実写化だからバリバリの戦意高揚映画で罪深いが、冒頭からバスビー・バークレーオモチャの兵隊場面 など検閲の無知につけこんだものだろう。

 

 

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東京パラダイス (1936) は東京の女性の伏水修監督作品のカラー化版だ。冒頭、国民精神総動員のスローガンが掲げられタイトル画面の音楽が消えているが、その先は銀座のモガモボたちが登場するおしゃれなミュージカルになる。銀座の夜景やレトロお茶の水が見られる。

主人公は銀座の店員だが、ルームシェアする親友はダンスホールのダンサーで現代でも通用する雰囲気をただよわせている。大昔の香港映画のようでもある。「いつか幸福が逃げていくような気がする」とヒロインがつぶやくのがかなしい。

これを見ると荷風は江戸から西洋にタイムスリップした異邦人で、アジア的近代の猥雑さについになじめなかった人とも思えてくる。

 

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カラー版クライマックスは音声がきえているので、オリジナルはこちら。

 

 

鴛鴦歌合戦