実録パーキスターン西部劇

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نازُو ڌَاريجو Nazo Dharejo

 

ナゾー・タレジョーはスィンド州Qazi Ahmed村の住人で、200人のダコイトを撃退した伝説をもっている。ハイデラーバードの北100kmあたりの土地だ。

 

ナゾーの父Haji Khuda Buksh Khan Dharejoはザミーンダールの家系だが、祖父には四人の妻があり他の息子にくらべ冷遇されていた。そのためか非伝統的な考えをもち、長女のナゾーのスィンド大学入学をみとめ子供のころから銃器の操作を教えた。男子のかわりにしたかったのかもしれない。

ザミーンダールが死ぬと兄弟間の相続争いがはじまった。自分の土地でも、生命の危険を冒さなければ立ち入れない場所があった。兄弟たちはスィンド州に基盤をもつブットーの人民党の地元政治家とつながり、ナゾーの父は野党と親しかった。

1992年、ナゾーが15才のとき兄がダコイトの仲間として逮捕にさいし殺害された。家族は偽装殺人フェイク・エンカウンターだと考えた。

母は剛毅な人柄で息子は「どこを撃たれたか」とたずね、胸だと聞くと「せがれはライオンのように死んだ」と答えた。父も殺人のうたがいがあり、後に別の嫌疑で投獄された。ナゾー一家には母と娘たちしかいなくなった。

 

この隙をねらい親類たちは土地争奪の勢いを強めた。父が獄中にあるとき武装した親族はナゾーのハヴェーリー(館)を襲ってきたが、18才のナゾーと妹は従兄ら別の親族、近隣の人々、使用人らとともに銃火で撃退した。この従兄とは後に結婚している。

 

健康が悪化した父は出獄後に肝炎で死亡した。2005年に第二波の攻撃があった。今回はImam Buxという懸賞首のダコイトを雇い200人で襲ってきた。一家にはカラシニコフ一丁と拳銃、わずかな弾薬しかなかった。敵は夜のあいだ銃撃をしかけ、おびただしい薬莢を残して日とともに去った。警察が来たのはそのあとで、ナゾーたちに立ち退きを要求したが一家はこれをはねのけた。問題は法廷にもちこまれ、ナゾーたちは謝罪と賠償金を獲得した。ここから鉄の女の伝説がはじまった。

 

伝説だから事実関係ははっきりとしない。上に要約したのは記事の寄せ集めだ。だれが200人を数えたかとかは別にして、いくら壁の高い田舎の館でも猛攻をしのげたのは向こうの意図が脅しだったからだろう。ダコイトたちも、命に見合う給金ではなかったのではないか。しかし白旗をかかげて投降したら殺害されただろうし、ナゾーたちの心の強さは疑う余地もない。

 

このたたかいではexpress tribuneの記事がいちばん詳細だ。これを読んだ巴系英国人監督のSarmad Masudは、英国資本でMy Pure Land (2017)を撮った。スィンド語でなくウルドゥ語で製作され、パーキスターンで撮影された。俳優もパーキスターニーだ。

役者と撮影はよいのだが、たたかいと過去を行き来する編集に難があって緊迫感からは遠い。回想の人物が幻想する場面などがはさまり、わけがわからないところがある。地主の土地争いを西部劇にしたくなかったのだろうが、実録というには事実に即していない。

映画予告   全編

主演の Suhaee Abro はダンサーで、バラタナーティヤム、カッタク、オディッシーを修めている。他の役で丸坊主になるなど、こちらも非伝統的な人柄のようだ。

 

短編映画の Nazo | Sarsabz Kahani (2020)は戦闘場面だけを描いている。実際のナゾー左ききではない。