不老をもたらすウイルス

ピペットをにぎるユッキー

 

岡本綺堂の半七捕物帳は海坊主や夜舞う蝶、動く墓石などの怪事件を解き明かす話だ。書かれた時代が近いため考証が行き届き、幕末江戸を追体験するには最良の読み物だろう。ムガルのバーブルに、おなじような推理譚があったことは以前書いた。

半七は江戸の不思議をすべて色と欲に還元し、背後の人間のたくらみを暴いていく。野暮な突っこみだともいえる。ただ、ひとつの怪談に合理的な落ちがついて後を引きずらず、読者はまたつぎの奇譚に初心で付き合うことができる。

 

パンドラの果実は色と欲の究極の目標である不老不死を焦点にして、その達成の過程で自滅したり犯罪をおかしたりする人間たちを描いている。

今回は岸井ゆきの(以下ユッキー)が科学から足を洗った原因である、新型ウイルスをめぐる事件だった。ユッキーはもともとウイルス学者で、老化を止める研究の過程で作ったウイルスが暴走し宿主はモンスターになってしまった。そこでパンドラの箱を開けてしまったことを悟り、研究から退いたのだった。

ユッキーの口癖の科学には超えてはならない線があるというのは、科学を応用した技術のことだった。世界を反射する鏡のような人間の知的好奇心は止めようがないが、そこで得た科学知識の実用化には知恵による制御が必要とされる。核エネルギーが典型で、使用者が被曝してしまうので廃止された小型戦術核などはそのマンガ的な例だ。

 

ユッキーは老化をふせぐウイルス(老化細胞を食うとか?)を創造したつもりで、実際はフランケンシュタイン博士になったわけだ。研究物は廃棄したはずだったが同僚のゴーゴー夕張が引退を惜しんで再開し、急激に人を老いさせる変異株を生んで自分が犠牲者になってしまった。学問的根拠は、作者に問い合わせてほしい。

ウイルスが拡散して滅亡の淵に立たされた世界を救ったのはユースケだったが、痴漢とまちがえられ女子高生たちに踏んづけられて一件は落着したのだった。

 

ユッキー、ユースケ、おディーンのトリオは今回もよいチームワークだった。来週はダイアモンド☆ユカイがゲストで、どんどん遊びに走っていくようだ。次回ではXファイルの音楽をパロったりしている。よく考えればトリックの例の曲も、完全にXファイルのパクリだ。

 

ユッキーのあとを継いでゴーゴー夕張が研究していた施設は、電子顕微鏡やマウスの支給もありそれなりの設備はあるようだった。それでもアンブレラ社などにくらべれば町工場のように貧弱で、いまの時代ウイルス製作や拡散は簡単な所業なのだろう。

ユッキーはハーヴァード留学のエリートだが、生物科学系の研究者は報われない仕事であるようだ。(引用記事の真実性は保証しないし、見解に同意するものでもない。)

この下部には、実験用マウスを日々生産調達するたいへんな仕事が存在する。ネズミなしに現代社会は成立しない。