パール・バック版ガイド

 

ワヒーダー・レヘマーンの代表作ガイド(1965)には、ヒンディー版と米監督によるUS版がある。ネットではその両方と前者の英語字幕版を見ることができる。(あいにく字幕版は音声と映像がずれている。)

 

両作は同一の筋をもつが、US版は「大地」の作家のパール・バックが脚本を担当しまったく別個の作品となっている。ヒンディー版は2時間50分、US版は2時間の長さだ。wikiではヒンディー版3時間3分となっている。

製作は同時進行し、公開はUS版が先だった。編集は印米で別だが撮影監督と音楽家、振付などの現地スタッフは共通する。

 

ワヒーダーの代表的踊りのひとつであるスネークダンスは両作に登場し、振付はおおむね同じでも撮影が異なっている。

 

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ヒンディー版

 

US版

 

この他のワヒーダーのダンスツアーでの踊りは、US版ではヒンディー版のサワリだけ流用した短縮されたものだ。

ヒンディー版の振付にはヒーラーラールと兄ソーハンラールの名があり、US版では弟の名だけがタイトル画面に出てくる。だから蛇踊りはヒーラーラールの作品と考えてよいだろう。

 

 

ガイドはインド人作家による英語小説The Guideが原作で、パール・バックが最初に映画化を企画し脚本も担当した。記事

ワヒーダーによれば、サタジット・レイもワヒーダー主演で映画化を考えていたという。

 

バックは普賢岳の噴火と津波を題材にしたTV映画「大津波The Big Wave を、1961年に日本人キャストで製作し脚本も書いた。特撮は東宝が担当している。その時の監督とまた組んで生まれたのがUS版The Guideだ。

 

ヒンディー版ガイドは考古学者の妻で元踊り子のワヒーダーが、旅行ガイドと出会うことで踊りの情熱を再び燃やし旅立つ話が前半となっている。ここまでの高揚は、じっくりとよく描かれている。ダンス場面も華やかなものだ。そこからまた運命は二転三転し思いがけぬ展開となるので、いかにもインド的なマサーラーな作品だといえる。

 

 

ヒンディー版ではワヒーダーは宮廷ダンサーの娘、US版では三代にわたる寺院の踊り子とされている。どちらも社会的含意は娼婦で、さらに既婚者であることが映画に苦い味わいをもたらしている。発表当時のヒンディー映画の風潮からも逸脱しているだろう。

 

US版は尺が短いこともあり、筋を追うのに終始している。結末も異なる。また海外製作にありがちだが、主役以外の現地の人間に性格がなく無表情な群衆でしかない。

 

IMDbによればUS版には吹き替えだがヌードやセックス・シーンがあったという。youtubeのものは裸はないが、主人公たちがベッドにいるシーンはある。

IMDb記事はヒンディー版とUS版がしばしば混同されている。