ケーララの象

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ケーララ州のドゥルガー祭、トリシュール・プーラムThrissur Pooram で顔見せする象たち

 

ケーララの象でもっとも有名なのは Thechikottukavu Ramachandran の名をもち、ラーマンの愛称で親しまれている。祭に出される50頭の象のなかだけでなく、インドの飼育象でいちばん背が高く肩高3.12m ある。
ラーマンに目が留まったのは Vadakkunnathan Temple でのプーラム開会映像だった。ここでの祭が、5月におこなわれる諸寺院のプーラムでいちばん規模が大きい。寺門の扉を開けることで式が始まるのだが、その役はラーマンのものだ。
ともかく目立って大きく、頭飾りの下の耳をパタパタさせて群衆の歓呼を静かに受けている。この祭には数十万人が集まるという。尋常でない人だかりと騒音に「よく暴れないな」との想いがずっと続き、ラーマンのことを知りたくなった。

 

ラーマンは1964年生まれで、アッサムで捕獲されビハールで飼われケーララのヴァダックナータ寺院に売られた。来た当初、ラーマンはヒンディーとボージプリーしか理解できなかった。調教で当地の象使いに鉄棒で眼を突かれ、片目は見えずもう一方も眼病で視力がない。
これまでにラーマンは11人の人間と2頭の象を殺しているが、性格が凶暴だからではなく見えない外界がこわいからだ。去年の2月の祭典では花火におびえ、2人を踏みつぶして死なせている。ケーララの寺院では500頭以上の象が飼われ、ラーマンは年間7-80の祭に客演している。そのなかの出来事で、これまでにも何回かくらった出場禁止の命令がくだった。象の出演料は5千ドルが相場で、ラーマンはもっと高いだろう。

これに対しケーララの象主協会は、5月のプーラムにラーマンを参加させなければすべての象の出場をボイコットすると抗議 した。ラーマンにはファンクラブがあって、複数のfacebookが存在する。SNSを通じてもラーマン出禁解除が呼びかけられた。もちろん禁止をもとめる世論もあった。
結局、同年5月のプーラムにラーマンは出ることができた。しかし今年のトリシュール・プーラムは、コロナで中止になっている。

 

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ケーララは象好きで、トラヴァンコールやコチの藩王国を受け継いで州章が象だ。寺で飼う象だけでなく、州内に5千頭以上いる。これはインドの総数の2割にあたる。(日本のツキノワグマは1万から2万6千頭のあいだと推測されている。)
ムトゥでタミルの地から迷ってケーララに入った二人が、身を飾った象たちに迎えられる場面があった。あれは建物や衣装をふくめケーララの風俗だ。

アジアゾウ絶滅危惧種で、状況はよくない。ケーララでも密猟、人間界とのあつれき、飼育環境の悪さなど、決して幸せな象の国とはいえない。ラーマンが終の栖で暮らすには、祭の主役を張りつづけなければならない。

 

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象が暴れると軽トラなどひとたまりもない。キングコングのようだ。

たくさんあるバーサク状態になった象の映像では、人間による虐待を非難するコメントがほとんどだ。宗教的立場から弁明するものはまずない。これらの象は家畜で、食われないでショーに出ている境遇だ。また、暴れるのは人間のあつかいに対してブチ切れることもあり、発情して酔象になっている場合もある。

ELEPHANT DANGERIOUS @ PALLURUTHY 赤旗地区で暴れる象。ペニスが伸びていたが、池に入って静まった。

 

Thrissur Pooram (2018) に祭は関係ないが、象の演技場面がある。
Vadakkumnadhan (2006)はモーハンラール映画で、ヴァダックナータ寺院は巡礼地のひとつではあるが映像そのものはない。