マウラー・ジャット

www.youtube.com

マウラー・ジャット (1979) 前半英字幕 

同後半

 

この作品はスルターン・ラーヒー演じる主人公マウラー・ジャットと、ムスタファー・クレイシーによるヌーリー・ナットの闘いの物語だ。80年代パンジャービー暴力映画の出発点となった。ムルターン近くの村が舞台となっている。

 

マウラー・ジャットはジャット族のリーダーで、25か所の農村を束ねている。かつては対立する一族相手に数限りない殺人を犯したが、いまは武器のガンダーサを封印して法により秩序を保とうとしている。

 

ある日ひとりの女がナット族の男に乱暴され、ジャットの村に助けを求めてきた。これは古くからの有数の踊り手であるアーリヤーが演じているが、救出されてすぐに死んでしまう。ナット族の男はジャットの一員にたたきのめされ、自分の村へと帰る。

ところがナット族の妹は倒された兄を臆病者となじり、射殺してしまう。

 

マウラー・ジャットはこの件につき、乱暴した男を女と結婚させることで裁きをつけようとするがすでに当事者は死んでいた。そのためナット族の妹をジャット族と結婚させることで埋め合わせにしようとする。

これはラジニのダルマドゥライでも描かれていて、村長のラジニが同様の一件で両者を結婚させる裁定をくだし女に感謝されていた。奇妙な習俗だが、古代南アジアの社会法として一般的だったのだろう。

 

そこにナット族の有力者で兄妹の長兄であるヌーリー・ナットが出所してくる。ヌーリーは自分より強い奴と出会って闘いたいと願い、犠牲者を生みつづけてきた人物だった。

マウラー・ジャットは村落の掟の守護者で、ヌーリー・ナットはだれがいちばん強いかを争うジャングルの掟の体現者だ。どちらが強く男の中の男であるかを戦って証明する運命にある。

 

 

パーキスターンのパンジャーブ地方は世界的にも有数の穀倉地で、分離独立でスィクやヒンドゥーが去ったあと土地所有をめぐって相当の混乱や争闘があったと想像できる。ジャット族とナット族は、源平の土地争いのようなことを重ねてきたのだろう。

物語はすでに国家が安定し警察司法が支配する時代となっているが、生活の基層では古代以来の村落自治にゆだねられている。しかしこの作品で争われるのは土地でなく、名誉と姻戚関係の実現だ。これはパダヤッパーでも描かれた命がけの闘いだ。映画の中では正義の側でなく、より狂っているほうに魅力が生じる。

 

ヌーリー・ナットは一族の復讐のために、弟を制裁したジャット族の男の足をへし折る。マウラー・ジャットはナット族の妹をジャット族の女にすることにくわえ、ヌーリー・ナットの足を代償として要求する。

マウラーは村落の法を原理とするが、ヌーリーはジャングルの法に従う。マウラーは剛直で野暮であり、ヌーリーは語尾で相手をハンサムと呼ぶ癖があり不思議な色気がある。

ふたりは互いを知らぬまま探し、出会えばひかれあいながら最後の決戦に向かうこととなる。

 

 

昨年、The Legend of Maula Jattが再映画化され、パーキスターン映画史上最大のヒットとなったが未見でなにもいえない

 

法治の世とはいえバブルのときの関東の土地争いのように、一皮めくれば血も涙もない争闘が下部にはうごめいている。これはパーキスターンもおなじで、実録パーキスターン西部劇記事で今世紀の事件を紹介している。