スネークダンスの系譜

image

 

インドの映画の特質のひとつは、蛇と象がよく出てくることだ。画面が切り替わって象にモンタージュしてパオーンとか、なにげなく蛇が部屋内に入ってきて腰を落ち着けるとか、映画つくりの発想というか環境がハンパでない。

牙は抜いてあるのだろうが、コブラがシヴァの首でくねくね動いていたりすると気が気でない。蛇女やスネークダンスもよく登場するのだが、象女はないだろうな。

このブログでもカマラーとラーギニの蛇踊りをすでに紹介した。本家のほうではシュリーデーヴィー、ワヒーダー、デブラ・パジェットを取り上げている。そこでインド映画史におけるスネークダンスを追ってみようとしたのだがムダだった。シュリーデーヴィーNagina(1986 ヒンディー)でのmain teri dushman が踊り、振付、音楽ともに最高峰であとは落穂ひろいになる。

 

f:id:moonleex:20200714221314g:plain

 

実際、Nagina以降ではミーナークシー・シェーシャードゥリの Nache Nagin Gali Gali (1989 ヒンディー)など踊りは二の次で、蛇使いと泥んこ肉弾戦 をしている。

 

レーカーのSheshnaag (1990 ヒンディー)も、振付はNaginaと同じサロージ・カーンながらダンスでの勝負は放棄して蛇女と蛇使いの軍団攻防戦を見所にしている。同作品ではジテーンドラとマーダヴィがペロペロ舌を出して踊ったりするシーンもある。

 

Sheshaはヴィシュヌのヘビのことだが、ミーナークシー・Sheshadriは蛇信仰に関係あるのだろうか?

 

ラミヤーのNageswari(2001 タミル) は女神映画の変種だが、ちゃちなCGにツッコミながら見るのが楽しい。

 

これらは踊りの達人たちの作品で見るに耐える場面になっているが、基本的に蛇映画はくだらない。スネークダンスがないのも多いし、踊りも雑技団の人をそのまま登用したものもある。上映時間が短かったり知らない俳優ばかりだったりで、データベースにも載らない三流ホラーというところだろう。それでもnaagとかnagをキーワードにすると興味深いものがひっかかる。

 

Nagula Chavithi (1956 テルグ) E.V.サロージャーのこのダンスでは、スネークダンスの基本がすべて現れている。ヴァイジャンティマーラーのNagin(1954)は腕をくねらせるくらいであまりヘビっぽくなかったが、このころはまだ定番の所作が出来つつあったということだろうか。

 

Anjali  (1957 ヒンディー)ではカッタクの舞踏家であるSitara Devi(wiki)の至芸が見られる。とはいえ衣装とセットで雰囲気を出している感じだ。バラタナーティヤムにはスネークダンスのレパートリーがあるが、カッタクにはないのかもしれない。

 

ヘレンはSunehri Nagin(1963 ヒンディー)でヘビ国王女として主演している。スネークダンスとして特筆すべきものはないが可愛く撮られている。

 

65年映画Sarpakadu  (マラヤーラム)の踊りはパドミニたちの従姉妹であるスクマーリSukumari(wiki)とアンビカAmbika(wiki)の共演が見所だ。スクマーリはラーギニに顔やしぐさが似ている。Thenmavin Kombath(「ムットゥ」の原作)で怖い家長を演じていた。

 

image

 

Naag Mere Saathi(1973 ヒンディー) タイトルアニメが可愛い。ヘビが1001匹出演とあるが、いまの目でいえばかなり虐待されている。) 

 

ジャヤマーリニにもDevathalara Deevinchandi  (1977 テルグ)という蛇女映画がある。デビュー3年目でまだ細めだ。紹介するのはこれがトリュフォーの「黒衣の花嫁」の翻案とされているから。ヘビ部族のダンス とかあって、インド映画らしい不適切さはともかく、ジャンヌ・モローや原作のコーネル・ウールリッチが見たらどう思っただろう。

 

Maqsad (1984 ヒンディー)は蛇映画ではないが、シュリーデーヴィーとジャヤプラダのスネークダンス競演が見ものだ。どちらが上かで諸所のコメント欄は割れている。もちろん両者ともうまいけれど、ダンスの軸がぶれず努力が見えないシュリーデーヴィーが一段まさっていると思う。ジャヤプラダはトランス状態を表現しているとの弁護もあったが、どんな踊りでもいっぱいいっぱいな感じがある。ただ目鼻立ちは、より派手だ。

ジャヤはdafliwale dafli bajaがいちばん好きだ。

 

Sathyama Naan Kavalkaran (年代不明。チランジーヴィの履歴にもない。)アマラーAmala(wiki)の軟体は曲芸の域だ。カラクシェートラの卒業生で、同校はカラナKaranaの柔軟性を求める流派だというが度を越している。ただ踊りは可も不可もなく、フィルミーダンスで頭角を現すには足りなかったようだ。演技力はありヒロインとして人気があった。ナーガールジュナと結婚して引退した。

アマラーはDayavanでマードゥリー・ディークシットの娘役を演じている(顔合わせはない)。

 

パーキスターンも蛇女映画はさかんなようで、「ウムラオ・ジャーン・アダー」のラーニーRani が Naag Mani (1972 ウルドゥ)と Naag Aur Nagin (1976  ウルドゥ)12 で踊っている。Naag Maniの音楽はヴァイジャンティマーラーのNaginでのman dole meraに似ている。

 

最近のものではサウンダリヤがカンナダ映画Nagadevathe(2000)に出演していたが、踊りについてはヘビ使いが徐錦江に似ているという以外特に主張すべきことはない。

 

Naag Yoni(2001 ヒンディー)などというものもあるが、なにをしたかったのかは不明。

 

最後に珍品中の珍品は香港映画青蛇転生 (1993)。マギー・チャンとジョイ・ウォン主演の同作でスネークダンスを演じるのは、「バーシャー」でラジニと共演したナグマーNagmaだ。さすがプロだが、インド人が香港の照明で香港のフィルムに映ると「やっぱりインド人だなー」と新鮮な感慨がわく。あたりまえだが。

 

image

 

Hunimeya Rathiriyalli(’80 カンナダ) ヘビ、象、猿の三点セット